成馬零一の直球ドラマ評論『とと姉ちゃん』六週目

『とと姉ちゃん』見事な展開となった第六週 祖母と母の和解はどう描かれた?

 小橋家が森田屋で働くようになって三ヶ月が過ぎた。常子(高畑充希)と鞠子(相楽樹)は長谷川(浜野謙太)に料理を教わるようになり、君子(木村多江)も仕事に慣れてきて、充実した日々を送っていた。しかし、祖母の青柳滝子(大地真央)と君子の不仲だけは以前のままだった。二人に仲良くなってほしいと思いながらも何もできずにいた常子だったが、ある日、隈井(片岡鶴太郎)から借りていた学費は、実は滝子が払っていたものだったと知ってしまう。「言わない方がいい」と鞠子に言われて、君子に黙っていた常子だったが、酔っ払った隈井が君子に話してしまったために、君子は学費の援助を打ちきってしまう。

 数日後、浜松から杉野社長(田山涼成)が会社の出張で森田屋を訪ねてきた。滝子のことを知っていた社長に、理由を問い詰めた常子は、実は以前、父の竹蔵(西島秀俊)が、滝子と君子の仲を取り持つために森田屋を訪ねていたこと。そして、竹蔵が小橋家の近況を「小橋家通信」として、毎月手紙に書いて滝子に送っていたことを知らされる。亡き父の想いを知った常子は滝子の元に向かう。

 今までの話は、この週のためにあったのかと思うような、落語みたいによくできた話である。

 玉子と鳥肉の味が親子喧嘩をしてしまうから親子丼は作るのが難しい。という会話からはじまり、滝子と君子が、自分のことを心配するあまり、仲たがいしていたことを知る常子。ととの手紙で小橋家の幸せな顔を振り返り、最後のダメだしとして、溺れた美子を助けるために川に飛び込む常子の姿を見せるという展開は「どれだけ泣かせるつもりか!」と言いたくなるようなエピソードの重ね方である。

 滝子と君子の和解が描かれた後で、宇多田ヒカルの主題歌「花束を君に」が流れた時には、ここで最終話でもいいんじゃないかと思ったほどだ。小橋家の親子三代の話が進む一方で、森田屋の玉子焼きの味をめぐって、森田まつ(秋野陽子)と息子の宗吉(ピエール瀧)がケンカする姿を並行して描くことで親子というモチーフを、違う視点で見せる手腕も見事で、実に完璧な週だったが、完璧すぎてちょっとやりすぎなんじゃないかとも感じた。

 あえて、王道の朝ドラをてらいなくやろうとする西田征史の脚本は、基本的には高く評価しているのだが、その端正な作りを見事だと思う一方で、どこか作りモノっぽく見える瞬間がある。なんというか、本物よりも綺麗な造花を見せられているような気持になるのだ。そんな本作のスタンスを職人芸として楽しめるか、嘘くさくて見てられないと思うかで本作の評価は大きく別れるのだろう。

 何度も書いているが、こういった作劇のスタンスは本作で繰り返し描かれる「本当と嘘」というモチーフと見事にリンクしている。みんなには内緒で、滝子からおやつをもらっていた美子(根岸姫奈)のかわいい嘘からはじまり、隈井からだと嘘をついて常子たちの学費を払っていた滝子。家族に黙って、小橋家の様子を手紙で送っていた父の竹蔵。君子が常子たちに滝子と争っている理由(滝子が常子と清を結婚させて、青柳商店の跡取りにしようとしていたこと)を黙っていたことも、ある種、嘘をついていたとも言える。

 しかし美子以外はみんな、誰かを思いやってついた「嘘」であり、だからこそ、真相を知った常子は嬉しくて泣き出してしまったのだ。それにしても突然泣き出した常子の姿を見て、ものわかりがよく周囲の人たちのことばかり考えている常子も、まだまだ子どもなんだなぁと思った。常子は「今の私の力では、どうする事もできません」と言い、自分は学校をやめて働くから、妹たちの学費だけは出してもらえないかと滝子に懇願する。10代の少女でありながら、とと(父)として振舞おうとする常子は、自分が無理していることに気づいているが、それでも家族のために自分がなんとかしなくてはといつも思っている。そんな常子に対して、まだまだ子どもなんだから一人で抱え込まなくていいよ。と言ってあげるのが本作の優しさだ。

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