マイケル・ファスベンダーが暴君を怪演する『マクベス』、その狂気の裏側にあるものとは?
オーストラリア出身の俊英監督とファスベンダーの邂逅
本作を手がけたのは74年生まれの新鋭、ジャスティン・カーゼル。舞台デザイナーとして頭角を現しながらも、決してシェイクスピアへの造詣が深いわけではなかった。
転機となったのが「スノータウン」(11・未)という長編デビュー作。アデレード郊外の小さな町で起こった連続猟奇殺人事件の顛末を描いた本作は、どこか『冷たい熱帯魚』(11)を彷彿させる狂気と、殺人に加担することになる少年の心理を丹念に掘り起こしてしていくものだった。カンヌ映画祭では国際批評家週間の特別賞を受賞。これを観て激しく心を動かされたマイケル・ファスベンダーはいち早くカーゼル監督との接触の機会を得て「いつか一緒に映画を作ろう」と固く誓い合ったのだとか。
その後、カーゼルとプロデューサーが様々なプロジェクトを検討する中で、「ファスベンダー主演のマクベス」の話が持ち上がった。かねてからの誓いもあって、シェイクスピア物である以上に、念願のファスベンダーとの初コラボとなることに惹かれカーゼルは本作の監督を快諾したという。
その結果、単なるシェイクスピアに造詣が深い監督ではない、むしろ人間としてのマクベスの狂気があぶり出されるかのような作品に仕上がった。その演出をいったん吸収して独自の方法論にて唯一無二のマクベス像へと昇華させていくファスベンダーもさすがだ。フランス語のアクセントを意図的に残しつつ、マクベスを力強く引っ張るマリオン・コティヤールも恐ろしく、儚い。
そして何よりも本作は、この夫婦がどこからやってきて、どこへ行くのか。その深層から沸き起こる狂気の源泉を、言葉以上に、その役者たちの細やかな表現によって刻もうとする。なんというか、後から様々なセリフや表情を思い起こすにつけ、ジワジワと納得と理解が及んでいく。そこが本作の大いなる魅力であり、彼らが渾身の力で挑んだ最新版『マクベス』の到達点といえよう。
実はこの3人、すでに撮影済みの『Assassin's Creed』でも再びチームを組んでいる。シェイクスピアから一気にゲームの世界へ。一気に世界の注目を集める存在となったカーゼルの挑戦は続く。舞台デザイナーとしての映像感覚と『マクベス』によって培われたスペクタクルとディテールの描写力を、次回作でも大いに花開かせてくれるはずだ。
■牛津厚信
映画ライター。明治大学政治経済学部を卒業後、某映画放送専門局の勤務を経てフリーランスに転身。現在、「映画.com」、「EYESCREAM」、「パーフェクトムービーガイド」など、さまざまな媒体で映画レビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。また、劇場用パンフレットへの寄稿も行っている。
■公開情報
『マクベス』
TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中
監督:ジャスティン・カーゼル
原作:ウィリアム・シェイクスピア
出演:マイケル・ファスベンダー、マリオン・コティヤール、エリザベス・デビッキ、ショーン・ハリス
配給:吉本興業
提供:アイアトン・エンタテインメント
(c)STUDIOCANAL S.A / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2015
公式サイト:macbeth-movie.jp