満島ひかり『トットてれび』の型破りな挑戦 “テレビが自由だった頃”をどう取り戻すか? 

 さらに、もうひとつのポイントを挙げるならば、それは徹子を中心としつつも、その周囲にいる共演者やスタッフが一丸となってひとつのものを生み出す「臨場感」だろう。すべての番組が生放送だった頃のテレビの現場は、まさしく鉄火場然とした様相を呈している。多くの人々が、次から次へと連携しながら織りなす番組作りの様子。本作の物語が持つスピード感は、恐らく当時の生放送も意識しているのだろう。当時の現場さながら、ときに演劇のセットのように繋がれてゆく舞台装置。その極めつけは、何といっても各話の最後に登場するミュージカル調のレビュー・シーンだ。初回は、笠置シヅ子に扮した中納良恵(EGO-WRAPPIN’)が「買い物ブギ」を、第2回では、坂本九に扮した錦戸亮が「上を向いて歩こう」を演者とともに歌い踊るという、驚きのクライマックス。演奏はいずれも、『あまちゃん』でお馴染み大友良英スペシャルビッグバンドが担当するという豪華さである。約30分という短い尺のなかに、笑いあり涙あり、そして歌あり踊りありという盛りだくさんの展開。それは、一般的な「ドラマ」と言うよりも、むしろ「ドラマ・バラエティ」とでも言うべき型破りなものとなっているのだ。そして、そのクライマックスがもたらす多幸感は、いわゆる「ノスタルジー」とは異なる高揚感を観る者に喚起させるのだった。これを野心的と呼ばず何と呼ぼう。ちなみに、第3話の最後では、お笑い芸人“我が家”の3人が、それぞれクレージーキャッツの植木等(坪倉)、ハナ肇(杉山)、谷啓(谷田部)に扮して、出演者全員と「スーダラ節」を歌い上げるという。

 ありのままの自分でいることの大切さと、それを支えてくれた人々への感謝……黒柳徹子が再三にわたって伝えてきたメッセージを主軸としながら、さらには「自由」であることの意味、そして大勢でひとつのものを作り上げる「高揚感」、その現場を目の当たりにする「臨場感」など、幾多の要素を盛り込みながら、約30分という短い時間を、満島ひかりともども猛スピードで駆け抜けていく『トットてれび』。それは、決して過去のテレビを回顧するものではなく、現状のテレビに欠けているものを探りながらテレビの未来を見据えようとする、作り手たちの果敢なチャレンジなのかもしれない。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「CUT」、「ROCKIN’ON JAPAN」誌の編集を経てフリーランス。映画、音楽、その他諸々について、あちらこちらに書いてます。

■番組情報
『土曜ドラマ トットてれび』
毎週土曜日20時15分~20時45分
出演:満島ひかり、中村獅童、錦戸亮、ミムラ、濱田岳、ほか
語り:小泉今日子
原作:黒柳徹子
番組サイト:http://www.nhk.or.jp/dodra/tottotv/

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