『ズートピア』が鋭く照らし出す、アメリカ社会の諸問題ーー作品に込められたメッセージを読む
このように本作は、およそ子供向けとは思えないくらいに、様々な社会問題を深く鋭く抉り出してくる。しかし、だからこそ子供に見せるべき価値のある作品になっているともいえるだろう。上から目線で、「子供にはこのくらい分かりやすくしなければ駄目だ」という先入観すら、ここではほぼ排除されている。この作品がアメリカで大ヒットを記録したことで、これからのアニメーションは大きな転換点を迎えることになるのかもしれない。そう予感させる一作である。
本作で最も映画的に美しい演出が行われていると感じるのが、キツネのニックが詐欺師になってしまった経緯を語る、夜のロープウェイでの場面だ。彼は少年時代、ずる賢いイメージのキツネであることから不当ないじめを受けていた。その過去を告白しながら、暗い夜の森のなかを移動していたゴンドラは上昇を続け、いつしか開けた視界には、朝日に照らされる街が映っていた。ニックが過去と向き合い、悲しみを乗り越える過程を、繊細な場面転換の演出で洒脱に描写しているのだ。現実の投影であるズートピアから、種族間の軋轢が無くなる日は、まだまだ先かもしれない。だが、ジュディやニックのように、一人ひとりが自分を変えていくことだけが、公平な社会を実現する唯一の道なのである。ゴンドラから見える、朝日に照らされたズートピアは、いつしかその日が来る希望を象徴しているように見える。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『ズートピア』
4月23日(土)2D/3D全国ロードショー
製作総指揮:ジョン・ラセター
製作:クラーク・スペンサー
監督:バイロン・ハワード/リッチ・ムーア
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
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