『スポットライト』の紅一点、レイチェル・マクアダムス “癒しの名演技”はいかに磨かれたか

レイチェル・マクアダムス

 長年、闇に葬られていた“教会の神父による児童への性的虐待”という衝撃の事実を、ボストン・グローブ紙のチームが暴いた経緯を描き、本年度アカデミー作品賞、脚本賞に輝いた『スポットライト 世紀のスクープ』。

 カトリック教会という巨大な権力を相手に、記者生命をかけて挑んだジャーナリストたちの奮闘を描いた同作で、チームの紅一点である記者を演じ、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたのが、今回この稿で取り上げるレイチェル・マクアダムス。その彼女が、14日に待望の初来日を果たし、本日16日には都内劇場で舞台挨拶を行うようだ。

 演技派ぞろいの男性キャスト陣に混ざり、組織の隠ぺいに勇猛果敢に立ち向かって行くマクアダムスの姿は、重厚なテーマを描いた作品の中で、ある種の癒しを観客に与える効果をも担っている。被害者や加害者に取材を重ねる真摯な姿と、時折見せる笑顔が特に美しい。

 カナダ出身のマクアダムスを、一躍有名にしたのが2004年の『ミーンガールズ』と『きみに読む物語』の2本。前者では主演女優であるリンジー・ローハンを徹底的にいたぶる学園の女王様という悪役を演じ、後者では身分違いの恋に落ちたヒロインを演じた。この2作品で、彼女はティーンからの絶大な支持を受け、特に劇中で何度も繰り返される情熱的なキスシーンが話題を呼び、MTVムービーアワードでベストキス賞を受賞する。

 どちらかといえば、初期の出演作品では清楚なお嬢様というイメージよりも、攻撃的な印象の強いキャラクターを演じてきたマクアダムス。その中で最も異色のキャラクターを演じたのが、『ミーン・ガールズ』の前に出演した、日本では劇場未公開の『ホット・チック』だ。

 カナダで活動していたマクアダムスが初めてハリウッドメジャー作品に出演した記念すべき作品で、彼女が演じたのはロブ・シュナイダー演ずるホームレスの中年と、中身が入れ替わってしまうわがまま女子高生(因みに脚本を書いたのはあのアダム・サンドラーだ)。

 残念ながら、見た目がおっさんで中身が女子高生という、シュナイダーがメインキャラクターだったので、ホームレス化したマクアダムスのシーンは大半がカットされてしまったが、荒々しくカウチに座り、ビールをラッパ飲みする、新人女優らしからぬ堂々とした姿が印象に残り、この時の好演が出世作の一つである『ミーン・ガールズ』の意地悪女子高生に繋がっているように思える。

 攻撃的な肉食系女子という印象の強かったマクアダムスのイメージが、少しずつ変化を見せはじめるきっかけになった作品が、ラッセル・クロウと共演した『消されたヘッドライン』だ。汚職議員のスキャンダルを暴くという『スポットライト』にも通じるテーマの作品中、彼女が演じたのがラッセル・クロウにジャーナリスト魂を叩きこまれる見習い記者。取材の途中で命を狙われ、怯えながらも真実を追及していく姿は、これまでの攻撃的な役柄とは180度違う印象を与え、演技の幅も更に広がりをみせた。

 その彼女の演技に、“優しさ”と“癒し”を与えるターニング・ポイントになったのが、恋愛SF映画『きみがぼくを見つけた日』だろう。自分の意思とは関係なく、突然タイムトラベルしてしまうという特殊な遺伝体質の主人公と、結婚するヒロインという難役を、マクアダムスは“受け”の演技に徹して演じきった。

 6歳の時に将来夫となる主人公と初めて出会い、タイムトラベラーであることを受け入れ、大人になるまで再会することを待ち続けてきた女性の健気な姿は、観客の涙腺を刺激した。いつ目の前から消えてしまうか分らない夫、そしてその遺伝体質を受け継いでしまった娘との狭間で揺れ動くヒロインの心理を見事に表現し、“受け身”の演技を見事に完成させている。

 演技の幅が広がったマクアダムスに、一流の映画監督から声がかかり始めたのも納得がいく。伝説の映画監督テレンス・マリックは『トゥ・ザ・ワンダー』に彼女を起用し、ウディ・アレンは『ミッドナイト・イン・パリ』に、サスペンスの名手ブライアン・デ・パルマは『パッション』に、またガイ・リッチーは『シャーロック・ホームズ』で、アイリーン・アドラー役に起用し、小悪魔的な魅力でホームズを翻弄させた。

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