板野友美主演『のぞきめ』の“恐怖システム”はどう機能する? Jホラーの系譜から考察

『のぞきめ』の“恐怖システム”を考察

 それを踏まえると、『のぞきめ』はJホラーの系譜の中でも『呪怨』に近しいテイストであると思える。村人が誰も近付かない峠に行った者だけが〝のぞきめ〟と遭遇し、その恐怖に襲われるという本作の恐怖システムは、呪いの家に足を踏み込んだ人間とその関係者だけが、恐怖を体験するという『呪怨』のシステムと同じである。『リング』や『劇場霊』のように恐怖の原因が移動可能な状態になく、はたまた『富江』のような一人の人間の周りでもなければ、『弟切草』のように限定された空間というわけでもない。あくまでも原因自体は不動産であり、そこに自ら踏み込んだ者が死に至るまでひたすら恐怖のスパイラルに巻き込まれ続けるという、自己責任色が強い点で共通しているのだ。

 強いて言うならば、その呪いの連鎖が、誰かれ構わずパンデミックしないあたりは少々こじんまりとした印象を受ける。劇中で、最初に描かれるカップルと、その解明のために峠に向かう主人公カップルの4人以外が、この“のぞきめ”の恐怖を体験する姿が描かれていないのである。これが『呪怨』や『リング』のような強力な感染力を持っていれば、事件を取材したテレビ局の関係者まで広まっていきそうなものであるが、もう一人、過去に“のぞきめ”と遭遇したという吉田鋼太郎演じる男が語るように、あくまでもこの「見られてる」という感覚は錯覚であると言い切ってしまうのである。主人公が、被害者の恋人と会うシーンを見ると、完全に潜在意識に刷り込まれたような、極めて個人的な錯覚としての恐怖が描かれているのがわかる。

 そんなホラーの要である心霊体験という現象に対する妙に消極的なスタンスは、本作があの『トリハダ』シリーズを手掛けた三木康一郎が監督しているということを知ると、納得ができるだろう。恐怖を体験している者にフォーカスを当てるのでなく、その原因となる事象に関するミステリーに重きを置いているあたりは、ホラー映画に必要不可欠なロジカルさへの追求を感じることができる。あくまでも死者が一方的に悪いのではなく、調和を踏みにじった生者に全ての原因があるというわけだ。それでも、『トリハダ』から一転して、幽霊の存在を可視化させたり、クライマックスで主人公がダムの底に沈んでいるはずの村を訪れるというファンタジックなシーンを織り交ぜるという方法論は、純粋にホラー映画として期待する観客を楽しませるということを忘れていないのだろう。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

映画『のぞきめ』予告編
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『のぞきめ』ポスタービジュアル (c)2016「のぞきめ」製作委員会

■公開情報
『のぞきめ』
4月2日(土)全国ロードショー
出演:板野友美、白石隼也、入来茉里、東ちづる、玉城裕規、小澤亮太、石井心愛、池田鉄洋、つぶやきシロー、石井正則、吉田鋼太郎
監督:三木康一郎
原作:三津田信三「のぞきめ」(角川ホラー文庫)
脚本:鈴木謙一
音楽:小山絵里奈
主題歌:板野友美「HIDE & SEEK」(キングレコード)
製作:映画「のぞきめ」製作委員会
制作プロダクション:ホリプロ
配給:KADOKAWA、プレシディオ
(c)2016「のぞきめ」製作委員会
公式サイト:www.nosokime.jp

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