『ソレダケ/that's it』『爆裂都市 BURST CITY』リリースインタビュー

『爆裂都市』から『ソレダケ』へーー石井岳龍監督が再びロック映画に向かった理由

 80年代初頭に『狂い咲きサンダーロード』(1980年)や『爆裂都市 BURST CITY』(1982年)といった斬新なロック映画を手がけてきた石井岳龍監督(ex.石井聰亙)の最新作『ソレダケ / that’s it』が、1月20日にDVD/Blu-rayで発売される。また、合わせて『爆裂都市 BURST CITY』が初めてBlu-ray化し、1月6日に発売されている。『ELECTRIC DRAGON 80000V』(2001年)以来、14年ぶりのロック映画となった『ソレダケ / that’s it』は、ロックバンド・bloodthirsty butchersの音楽を題材に、染谷将太、水野絵梨奈、渋川清彦、村上淳、綾野剛といった気鋭の俳優陣が、ハードボイルドな闘争を繰り広げる青春活劇だ。石井岳龍監督はなぜ、再びロック映画を手がけたのか。そして80年代から現在にかけて、自身の表現にはどのような変化があったのか。新旧のロック映画を比較しつつ、監督の映画論に迫った。聞き手は、音楽評論家の小野島大氏。(編集部)

「『爆裂都市』を撮ったとき、高潔な志だけはあった」

石井岳龍監督

ーー『ソレダケ/that's it』(以下『ソレダケ』)がいよいよソフト化されます。同時に『爆裂都市 BURST CITY』(以下『爆裂都市』)も初Blu-ray化されますね。監督の新旧ロック映画の傑作が最高画質で登場するわけですが…。

石井:もうまな板の上の鯉といいますか(笑)。今さら作り直すわけにもいかないので、あとはお客さんに委ねる。そういう心境です。

ーー特に『爆裂都市』はリマスターということで久々にじっくりご覧になったかと思います。

石井:うーん、痛かったですねえ(笑)。当時は滅茶苦茶なことをやってたんで。もちろん最高のものを作ろうとして、いわゆる常識外れなことをやったんですが、数々の若気の至りがあるんで…とっても痛い(笑)。当時のことを思い出して、この人にはこんな酷いことをした、あの人にはあんな酷いことをした、って(笑)。みんなお金じゃなく情熱でやってたんでね。かなり過酷な要求をしたと思うんです。それに最後、編集が間に合わなかったんですよ。音がついてない箇所も一杯ある。最後まで編集ができてない箇所があるのに、封切り日が決まってたので、途中段階で公開せざるをえなかった。そのへんが自分としては観ていて痛い。

ーーじゃあ今回ブルーレイになるものも、監督としては完成していないという思いがある。

石井:ありますね。ただそれも引っくるめて、”永遠の未完成の暴動”と言いますかね。今そんなことをやろうと思っても絶対できないんで。そういう本当に無謀な、跳ね上がった若い奴が、ちょっとお金もらって舞い上がって滅茶苦茶なことをやった。常に志は高く持ってますし、「絶対今まで見たことのないような映画を撮ってやる」という気持ちだけは、高潔な志だけはあった。この作品も面白い映画を撮ろうとしてるんですが結果、玉砕してるっていうか(笑)。その記録…ドキュメンタリーみたいなものですね。

ーー"永遠の未完成の暴動"という表現は面白いですね。若さゆえに未完成で終わる暴動。映画のテーマに通じる。

石井:うん、そういう意味で非常にピュアな作品だと思います。何の計算もない、当時の自分たちの衝動のまま、あるいは時代のままというか。映ってる人たちが凄いですね。よくこれだけのことをみんなやってくれてるなと。小ぎれいにまとめるつもりはまったくなかったので、そういう自分の意思はすごくいいと思うんですけど、やっぱり無謀なことをやっている(笑)。その玉砕ぶりが清いととるか(苦笑)…私としては無念なところもありますね。今回はブルーレイ・ディスク化の作業だったんで、クリアにしていくわけですよ。一場面一場面、フィルムに映ってるものをワンカットずつクリアにしていって。なので見えるわけです、全部。DVDじゃ見えなかったものが見える。通常なら流れていくものなんですが、今回は全部見える。それが痛かったですねえ(笑)。自分の失敗まで含め全部。

ーー若いころの自分のダメなところが全部晒されているような。

石井:そうですねえ。自己評価として、いい部分っていうのはそんなに見えてこなくて。うまくいかなかった部分、ダメなところばっかり目についてしまうんですね。それがすごく痛い。リマスターは義務として精一杯やりましたけどね。参加してくれた仲間たちへの義務として。拷問のようでしたけど(笑)。

ーー拷問ですか(笑)。『狂い咲きサンダーロード』のDVDのコメンタリーでも「これは痛い映画だ」とおっしゃってましたけど、痛さ度合いでいうとどっちが…。

石井:いやあ、両方痛いですけど、『爆裂都市』の方が痛いですね(笑)。あれで仲間も散り散りになってしまったし。契約の関係で未完成の段階で公開せざるをえなかったから。それまではそういう仕事をしたことがなかったですからね。撮影が終わった時が終わる時、完成した時が公開だという。

ーーじゃあまさに音楽でいうインディーズとメジャーの違いですね。

石井:そうです。自分が今後映画を作り続けていくんであれば、インディーズでやるのかメジャーでやるのかという選択を迫られた。それで当時の仲間は全員、ふざけるなということで離れていって、会社も完全に破綻した。自分の生活自体も破綻したんです。それでこれから自分はどうしようかって呆然としてる時に、尊敬する長谷川和彦監督に声をかけてもらって。ディレクターズ・カンパニーっていうのを作るからお前も参加しないかと。天の助けかと思いましたね。それまでやっていたインディーズの作り方はもうできないだろうし、本格的にプロとして映画をやっていかなきゃいけない。それが次の『逆噴射家族』(1984年)になるんですけど。私にとってそれまでの映画作りは、『爆裂都市』で終わったんです。

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