香港映画のエロ・グロ・バイオレンス“三級片”の怪優、アンソニー・ウォンが描く狂気
ここまで読んで、どういう話だと思った方も多いかもしれない。まず説明すると、当時の香港では乗車拒否やチンピラまがいの行動をとるなど、モラルの低いタクシー運転手が実際に問題になっていた。この映画はそんな社会問題に対する怒りが根底にある。このプロットは、いうなれば、そこから逆算的に作られたものだろう。そうした社会派(?)な一面もあるのだ。しかし、本作の最大の魅力は、やはりアンソニーの存在だ。悲劇によって壊れていく小市民を、時に切なく、時にユーモラスに演じている。その優しい佇まいは「スーパークレイジー極悪」なアンソニーを期待すると、呆気にとられるだろう。直接的な残酷表現も少なく、むしろ『タクシードライバー(76)』よろしく銃を構えながら決め台詞を練習するシーンなど、コミカルなシーンや、友情や人情を感じさせる場面も多い。ただ、そんな優しい佇まいをしていながら、微笑み一つで確かな狂気を表現して見せる。今まさに人間の心が壊れたことを、微笑み一つで表現する…これはアンソニーの高い演技力を持ってこそ可能な芸当だ。
この映画を観れば、アンソニーが単なるキワモノ系ではなく、れっきとした実力派であることが分かる筈だ(そう言う意味では、アンソニー入門編としても最適な一本である)。そして…では、この高いポテンシャルをキワモノ方向に全力で振るとどうなるか?その詳細は次回『エボラシンドローム』にてご紹介したい。
■加藤ヨシキ
ライター。1986年生まれ。暴力的な映画が主な守備範囲です。
『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』に記事を数本書いています。
■作品情報
『香港Ⅲ級片スーパークレイジー極悪列伝 限定版DVD-BOX』
発売中
価格:12,312円 (税込)
出演: アンソニー・ウォン
監督: ハーマン・ヤウ
収録:『八仙飯店之人肉饅頭』、『タクシーハンター』、『エボラ・シンドローム』
公式サイト:http://super-crazy.united-ent.com/