なぜ『ナルコス』は数ある“麻薬モノ”の中で突出して面白いのか? 実録ゆえの説得力に迫る

 1991年、 コロンビア。その施設は、コロンビアの大都市メデジン市内に建っていた。室内は高級家具に彩られ、広大な敷地にはバー・カウンターにディスコ、サッカー場まで整備されていた。住人達はサッカーで汗を流し、パーティーで酒を楽しみ、結婚式まで楽しんだ。時にはメデシン市内へショッピングに出かけることもあった。
 
 しかし…その施設「ラ・カテドラル」は、高級ホテルでもなければ、大金持ちの保養地でもなかった。ラ・カテドラルは、コロンビア政府の刑務所だった。しかし、パーティーを楽しむのは囚人たちであり、バーテンダーは刑務所の職員だった。コロンビアはもちろん法治国家である。このような無法は通常起きえない。なぜ、このような状況が成立したのか? それはラ・カテドラルに収監されていたのが、世界犯罪史上に残る麻薬王、パブロ・ エスコバルだったからだ。
 
 「麻薬王」こう書くと、ただの麻薬の売人の親玉くらいに思うかもしれない。しかし、このラ・カテドラルに収監された時点で、パブロの組織は単なる麻薬組織の範疇を超えていた。彼らが犯した凶悪事件は、麻薬売買や抗争にとどまらず、政府施設や旅客機への爆破テロ、大統領候補の暗殺…など、枚挙にいとまがない。当時のコロンビアでパブロと対立することは、死を意味していたのである。

 Netflixオリジナルのドラマ『ナルコス』は、文字通り巨悪と言うべき麻薬王パブロと、彼に挑む者たちの血みどろの対決を描いた作品だ。一応、「事実に着想を得た創作」となっているが、限りなく事実に近い…いわば「実録モノ」と言っていいだろう。
 
 「実録」「実話に基づく」…こういう触れ込みの作品は非常に多い。それは「こんな話が本当にあったのか」という驚きを担保できるからだ。また、フィクション内の殺人と、ノンフィクション内の殺人では、その物語を聞いた時の印象も全く異なるだろう。一方で、実話をベースとすることには短所もある。端的に言うなら、ネタが割れてしまうことだ。パブロの物語もそうである。この対決がどういう結末を辿るのか? それはネットで検索すれば、すぐに知ることができる(マーク・ボウデン著『パブロを殺せ―史上最悪の麻薬王VSコロンビア、アメリカ特殊部隊』という、ノンフィクションの決定版も出ている。これは、事実上このドラマの原作と言ってもいいだろう)。しかし、物語の結末と過程を知ってもなお、本作の面白さは決して損なわれない。

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