黒川芽以、なぜ男たちを惹きつける? 『愛を語れば変態ですか』で見せたミステリアスな色気

 

 一見、地味で大人しそうに見えた妻・あさこが、男たちの訪問によって次第に魅力を増してゆくその様は見事だ。束ねていた髪をほどき、エプロンを外し、身体のラインが出る薄手のワンピース姿を露わにするあさこは、無言のまま、目で男たちと会話する。しかし、あさこを必死で奪い合う男たちの空疎な会話の応酬は、やがて彼女を幻滅させる。挙句の果てには、同じ女性を愛した男同士、奇妙な連帯感を持ち始めるし。あさこは思う。お前らの言ってる“愛”とは、いったい何なのか。“愛”の本質は、所有なんかじゃない。浮気と言えば確かに浮気だが、その瞬間に燃え盛った情熱は、決して嘘じゃない。というか、そんな情熱のほとばしりこそが、目の前の風景を一変させてしまう体験こそが、“愛”の本質ではないのか。かくして、覚醒したあさこの暴走がスタートする。「今のご時世、愛を語れば変態ですか?」。

 とまあ、テーマ自体は非常に面白いし、“オタサーの姫”ではないけれど、さえない男たちを一歩前へと踏み出させてしまう色香をまとった「あさこ」という人物は、まさしく彼女の得意とするところであり、その意味で個人的な満足度は高かった。しかし、たとえ唇を重ねようとも、決してその内面を見透かすことのできないミステリアスな存在だった彼女が覚醒し、主体的な意思を持って行動し始めてからの展開は、正直かなり面食らった。もちろん、その荒唐無稽な面白さこそが、この監督の醍醐味なのだろうし、痴情のもつれがいつの間にか宇宙規模のスケールへと飛躍してゆくこのシュールな展開こそ、この監督が“演劇界の鬼才”と呼ばれるゆえんなのだろう。劇中の男たちは言うまでもなく、それを観ている我々すら、最終的にはただ呆然と見守るしかない、天衣無縫な奔放さを垣間見せる女優、黒川芽以。やはりこれは、気にならずにはいられない。

(文=麦倉正樹)

 

■公開情報
『愛を語れば変態ですか』
公開中
出演:黒川芽以、野間口徹、今野浩喜(キングオブコメディ)、栩原楽人、川合正悟(Wエンジン チャンカワイ)、永島敏行
監督・脚本:福原充則
音楽:西山宏幸
プロデューサー:高根澤 淳
撮影:早坂 伸(J.S.C)
美術:須江大輔
照明:落合芳次
録音:栗原和弘
編集:西潟弘記
助監督:富澤昭文
製作担当:入交祥子
制作:松竹
企画:松竹撮影所
配給:松竹メディア事業部
上映時間:73分
(c)2015 松竹
公式サイト:aikata.jp

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