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『PAN ネバーランド、夢のはじまり』に見る、ジョー・ライト監督の映画作りのルーツ

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パペッティア一家で育まれたライトの創造性

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 ふたつ目に挙げたいのが、もともとジョー・ライトが“パペッティア(操り人形師)”の一家に生まれ育ったという事実である。ロンドンのイズリントンにあるリトル・エンジェル・シアターはジョーの両親が1961年に創立し、数々の公演のみならずワークショップや教育などにも力を入れている劇場だ。つまりライトが生まれた時から、アートやファンタジーは、日常として彼の目前に広がっていたと言っていい。彼のretellingの才能も、数々の既存の名作を人形劇へと翻案していく両親およびスタッフのプロフェッショナルなワザを受けて、自ずと育まれていったことは想像に難くない。

 きっとその頃の影響なのだろう。彼が映画製作においてもまるで一座の巡業のように、気心の知れたスタッフを起用し続ける傾向にあるのは有名だ。何よりも現場の空気感を大切にし、リハーサルにたっぷりと時間をかけてキャラクターや場面を練り上げる。そして撮影現場では必ず、これから取り組むシーンのイメージを掻き立てるために、場面や感情にふさわしい音楽を流してスタッフやキャストの感情を導いていくのだとか。ちなみに本作に登場する“ネバーバード”の造形デザインには実の姉でありパペッティアのサラ・ライトを起用。こういったところにも何かジョー・ライトの原初的な想いが結実しているのを感じる。

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 こうやって彼の経歴から考えると、本作におけるピーター・パン特有のあの“飛ぶ”“跳ねる”といった浮遊性さえ、まるで操り人形の糸によって巧みに表現された所作のように思えてくる。たとえばふわりと身体が着地する時のあの優しいタッチにも、彼にしか表現し得ない、ふわりと重力操作されたみたいなマジカルな瞬間が刻み込められているというか。

 『PAN』はジョー・ライトにとって初のファンタジー。それもかつてないほどのビッグ・プロジェクトとなった。でもしかし、その規模とは反比例して、ライト監督の心はむしろ、彼の生まれ育った我が家=劇場に回帰していたのではないだろうか。本作はそういった監督自身の純真さ、無邪気さが感じられ、どことなく温かな、優しい気持ちにさせてくれるところがある。

 彼にとってのヒーローはすぐ近くにいた。いつも驚きの手法でファンタジーの世界を紡ぎ出していた両親の姿。そして素敵で愉快な仲間達。こういった記憶、思い出こそ、彼の心の中にいつまでも留まり続ける永遠のネバーランドなのかもしれない。

■牛津厚信
映画ライター。明治大学政治経済学部を卒業後、某映画放送専門局の勤務を経てフリーランスに転身。現在、「映画.com」、「EYESCREAM」、「パーフェクトムービーガイド」など、さまざまな媒体で映画レビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。また、劇場用パンフレットへの寄稿も行っている。Twitter

■公開情報
『PAN ネバーランド、夢のはじまり』
10月31日(土) 3D/2D 字幕版/吹替版 全国ロードショー
出演:ヒュー・ジャックマン、ギャレット・ヘドランド、ルーニー・マーラ、リーヴァイ・ミラー、アマンダ・サイフリッド、カーラ・デルヴィーニュ
監督:ジョー・ライト
脚本:ジェイソン・フュークス
製作総指揮:グレッグ・バーランティ、サラ・シェクター、ポール・ウェブスター
日本語版 声の出演:(ジェームズ・フック役)成宮寛貴、(タイガー・リリー役)水川あさみ
配給:ワーナー・ブラザース映画 
(C)2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
オフィシャルサイト:http://www.pan-movie.jp

      

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