ピーター・グリーナウェイの“世紀のチン作”を観た! エイゼンシュテインのメキシコ滞在を描く
スペインやラテンアメリカなど、スペイン語圏の最新映画を紹介する映画祭、ラテンビート映画祭が10/8(木)から10/11(月)にかけて、新宿バルト9にて開催された。12回目の開催となる今年のラインナップは、昨年の同映画祭で特集が組まれたアレックス・デ・ラ・イグレシア監督の最新作『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』や『NO』のパブロ・ラライン監督の最新作『ザ・クラブ』、ガエル・ガルシア・ベルナルとディエゴ・ルナが製作総指揮に携わる『選ばれし少女たち』など、有名監督の最新作からカンヌやベルリンなど、各国の映画祭で賞を獲った作品が数多く上映されるとあって、映画ファンの間では開催前から話題となっていた。
先に述べた作品群ももちろん素晴らしかったのだが、今年のラインナップの中で最も衝撃だったのが『英国式庭園殺人事件』(1982)や『ZOO』(1985)などで知られるイギリスの奇才監督ピーター・グリーナウェイの最新作『エイゼンシュテイン・イン・グアナファト』だ。受賞こそ逃したものの、2015年のベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、話題を呼んだ本作。“ラテンビート映画祭”なのにイギリス人のグリーナウェイ作品がなぜ・・・という疑問がまず第一にあったのだが、製作国がオランダ・メキシコ・フィンランド・ベルギーで、メキシコを舞台に描いた作品ということで、今回の上映に繋がったようだ。
そのタイトルからもわかるように、本作は、ロシアの映画監督セルゲイ・エイゼンシュテインを題材にしている。1931年、ドキュメンタリー映画『メキシコ万歳』の撮影のため、メキシコ中部に位置する街、グアナファトを訪れたエイゼンシュテインが、映画の撮影をよそに、現地でガイドを務める美しい男性パルミーノとの愛とSEXに溺れていく10日間を描いている。エイゼンシュテインは現代の映画制作においてもかかせない“モンタージュ理論”を確立した、映画史において最も重要な人物のひとりだ。“モンタージュ理論”とは、異なるカットを組み合わせることにより、映像の中では直接語られていない効果や意味性などを、観客に対し生じさせるものである。本作の中でも、画面を3分割し異なる視点で捉えたカットや、作中で挿入されるチャーリー・チャップリンやジャン・コクトー、マレーネ・ディートリッヒらの実際の写真など、グリーナウェイが称賛してやまないというエイゼンシュテインのモンタージュ理論を意識したシーンが数多く確認できる。エイゼンシュテインがメキシコで映画撮影をする風景こそあまり描かれないが(『メキシコ万歳』は結局自身の手で完成させることができずに終わった)、もともと画家志望であった彼ならではの絵画的な映像表現ーーカラーからモノクロへと変化するメキシコの雄大な情景、グアナファトに実在するミイラ博物館でのシーン、空間を駆使した立体的な構図での横移動ーーなど、一目見てグリーナウェイだと認識できるその作家性は健在だと言える。