『ファンタスティック・フォー』と『クロニクル』の奇妙な符合ーートランク監督の作家性を読む

『ファンタスティック・フォー』レビュー

 一方、この映画には、超能力を持て余して暴走しはじめる『クロニクル』のデイン・デハーンのように、ところどころ、溜まったマグマが異様なテンションで吐き出される箇所も散見される。

 たとえばミッション中に事故が起こり、仲間が次々と青い光に飲み込まれていくくだり。ここでの出来事がきっかけとなって4人の身体には特殊能力が芽生えるのだが、本編中で最も重要なこのシーンの怪奇さは筆舌に尽くし難い。まるでモンスター・ムービーのようだ。

 手足がびろーんと伸びる「ろくろくび」や、身体を炎で包まれながら高速で飛来する「人魂」、人前で消えたり現れたりする「幽霊」。そして『リトル・ダンサー』(2000年)で知られるジェイミー・ベルに至っては、その精悍な姿を放棄して怪力な「岩男」と化してしまう。筆者は子供の頃、『スーパーマン3』(1983年)で女性研究者が機械に取り込まれてロボット化するシーンで「怖い!」と泣いた経験があるが、久方ぶりにあの頃の記憶が蘇ってくるかのようだった。

 そして、後半はなおいっそう『クロニクル』とバイオリズムを同じくする物語として観るべきだろう。とくに、忘れた頃に舞い込むDr.ドゥーム(トビー・ケベル)の投入は、これまで溜まりに溜まったマグマが天に向けて垂直に吹き出すほどの衝撃だ。

 研究所内で巻き起こる凶行はまさにホラーそのもの。鉄仮面をかぶったDr.ドゥームの瞳からは、『クロニクル』でデイン・デハーンが体現していた怒り、焦燥、混乱と同じものを感じたし、いま改めてすべての事情を整理すると、その肉体には監督本人の魂さえ乗り移っていたのでは?と勘ぐりたくもなる。いずれにしても、すべてをぶっ壊そうとする凄まじい破壊力だ。

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 今回の映画製作でジョシュ・トランクが涙を呑んだ部分がたくさんあったのは事実だろう。だがその一方で、こうやって公開されたバージョンがことのほか彼の軌跡やメンタリティ、そして『クロニクル』の記憶を刻印するかのような作りになっているのは興味深い。製作の裏側で何があったのかを推し量るには、まず本作を観て想いを巡らせてみるのもひとつの有効な手立てなのかもしれない。

■牛津厚信
映画ライター。明治大学政治経済学部を卒業後、某映画放送専門局の勤務を経てフリーランスに転身。現在、「映画.com」、「EYESCREAM」、「パーフェクトムービーガイド」など、さまざまな媒体で映画レビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。また、劇場用パンフレットへの寄稿も行っている。Twitter

■公開情報
『ファンタスティック・フォー』
TOHOシネマズ 日劇ほか、全国ロードショー中
オフィシャルサイト:http://www.foxmovies-jp.com/f4/
オフィシャルtwitter:https://twitter.com/F4MovieJP
オフィシャルfacebook:https://www.facebook.com/F4MovieJP
配給:20世紀フォックス映画
(c) 2015 MARVEL & Subs. (c) 2015 Twentieth Century Fox

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