キース・リチャーズの滲み出る人間性ーーネットフリックス独自ドキュメンタリーを小野島大がレビュー

 シカゴのチェス・レコード、マディ・ウォーターズの自宅、ナッシュヴィルのコンサートホールなど、ゆかりの地を訪ね歩き、映画『シャイン・ア・ライト』で共演したシカゴ・ブルースの暴れん坊バディ・ガイと、くつろいだ様子でビリヤードに興じる姿も収められている。忘れがたい想い出と、マディ、チャック・ベリー、ハウリン・ウルフ、ハンク・ウイリアムスなど、自分に影響を与え形成してきた音楽家たちへの敬愛の念を語るキースの穏やかな表情には、現在71歳という年齢なりの(あるいはそれ以上の)深い皺が刻まれているが、その笑顔には一片の邪心も嘘も感じられない。この男の言うことなら信じられる、という気にさせられるのだ。音は人なり、という言葉が浮かんでくる。

 一時は引退を考えたというドキリとするような話も出てくるが、年若い友人のスティーヴ・ジョーダンにどやされて思いとどまったというエピソードもいい。キースが心からスティーヴを信頼し、スティーヴもまた父親のようにキースを慕っている様子がうかがえる。カラダが許す限りは音楽を続けていくと述べるキースの表情は晴れやかだ。

 ドキュメンタリーとしての作りはごくオーソドックスだが、滲み出る主役の人間性が、この作品をとびきり優れたものにしている。

 このレベルの映像作品がネットフリックスのオリジナル・コンテンツとして今後もコンスタントに提供されるようなら、650円~という月額料金は安すぎる、とさえ言える。××を解約してこっちに移るか……。

■小野島大
音楽評論家。 時々DJ。『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』などに執筆。著編書に『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)『音楽配信はどこに向かう?』(インプレス)など。facebookTwitter

 

■公開情報
ネットフリックスオリジナルドキュメンタリー
『キース・リチャーズ:アンダー・ザ・インフルエンス』
独占配信中
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