園子温が語る、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に負けない日本映画の戦い方

園子温が語る、日本映画の戦い方

「日本映画の予算規模なら、たくさん作ったほうがいい」

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――2014年に公開された園さんの作品を俯瞰すると、どの作品にも「子ども」とか「自分探し」とかいうキーワードがあるような気がします。本作の嘉郎は幼少期に立ち戻って、そこに自分探しの答えを見つけようとしますが、同じように園さん自身も、『ラブ&ピース』みたいな子どもの頃親しんだジャンル映画に立ち戻って、『新宿スワン』や『リアル鬼ごっこ』の主人公のように自らの方向性を見出そうとしているんじゃないかと。

園:おそらくそういう時期だったんでしょうね。でもそれは『映画 みんな! エスパーだよ!』で一区切り付くはずです。マンガにしろ小説にしろ、原作ものはこれで終わりだろうし、これからはずっとシリアス系で行くと思います。柔らかいやつはちょっとなくなるんですね。

――そうなんですか? シリアス系というと、『希望の国』のような社会派の作品ですか?

園:もっとアートハウス系に行くということです。『地獄でなぜ悪い』以降、ものすごい勢いでエンタメのほうに舵を切ってきたので、もう一回軌道を修正していこうかなって。

――来年公開の『ひそひそ星』は、うかがってる話だと、けっこうアートハウス的な作品ですよね。

園:完全にそっちです。だから振り出しに戻ってリスタートというか、一度全部洗い流して、いままでの技術をあまり使わずにやっていきたいと思ってるんです。

――『地獄でなぜ悪い』以降、園さんは大量生産の時期に入っていて、ご自身でも「質より量」ということを公言していますね。

園:質より量の時期はまだまだ続くと思います。ただ、撮るもののタッチが変わっていくだけで。質より量と言っても、たぶん僕の映画のとらえ方は他の人と違っていて、1本の映画は音楽の1曲だったり小説の1篇だったりするんです。1年に1曲しか作らないミュージシャンってなかなかいないじゃないですか? 他のジャンルならそんなに寡作な人は少ないはずで、映画ももっとガンガン作っていいんじゃないかって。特にいまの日本映画の予算規模なら、たくさん作ったほうがいいと思うんです。ハリウッドみたいに製作費数百億円の映画なら、1年に1本もわかりますよ。でも製作費数千万円の映画はさっさと準備して、作りまくったほうがいい。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のような数百億かけた映画に、数千万の映画が立ち向かってもダメなんです。

――真っ向から立ち向かってもかないませんね。

園:ひき殺されますよ、何百台という改造車に(笑)。そうではなく、数千万円なら数千万円の刹那を生きなきゃいけない。ビートルズにたとえれば、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を作ろうとしたらあかんのです、これは。でも、一発録りで完成させたファーストアルバムの迫力なら出せるだろうと。そういう意味で、僕は質より量と言ってるんですね。どうあがいても、数百億の質は生み出せないから。じゃあ、自分たちの製作費の中でできることを探して、短期間で突っ走るのが奴らに一番できないことだろうと。『冷たい熱帯魚』は10日間で撮ったけど、ハリウッドはむしろそんなの無理でしょう? その刹那に命を張るということでいいと思うんです。

――それがこれまでの経験の中で、園さんが見出した「勝つ戦い方」ですか?

園:いきなりステージに立たされた芸人が、どこまで客を笑わせられるかという感じに近いですね。ブロードウェイとは勝負できないかもしれないけど、セットも何もないステージで笑わせることならできるんじゃないかって。その心意気ですね、大事なのは。

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