【中央公論新社創業140周年】文芸誌『アンデル』復刊の裏側ーー手作り表紙と80ページに込めた編集部の熱量

中央公論新社は創業140周年記念として、10年ほど前に刊行されていた小さな文芸誌『アンデル』を今年1月より2年の期間限定で復刊した。80ページとコンパクトだが、バラエティに富んだ内容だ。編集に携わる打田いづみ、深井恵、小田巻彩恵、デザインを担当する三浦彩子の4氏に同誌の狙いを聞いた。(9月17日取材・構成/円堂都司昭)
創業140周年事業から生まれた「小さく薄い文芸誌」

――『アンデル』新創刊の経緯を教えてください。
打田:2年ほど前に、創業140周年を迎える2026年に向けて、社内で記念事業のアイデア募集がありました。そこで小田巻が提案した『アンデル』復刊が採択され、文芸編集部内に「アンデル班」を作って準備を進めてきました。
――なぜ『アンデル』を復活させたいと思ったんですか。
小田巻:自分は今30歳ですけど、同世代で学生の頃に本好きだった人たちも大人になるにつれて読まなくなっていて、「厚いことがハードル」という話をよく聞きました。だから、新しく文芸誌を作るなら、薄さが長所になるのではないかと思ったんです。

――今の『アンデル』は旧『アンデル』から「小さな文芸誌」というキャッチフレーズを受け継いでいてどちらも薄いですが、今の方が長篇連載、読み切り短篇、翻訳小説、対談、エッセイ、コミックエッセイ、コラム、詩、短歌、回文、往復書簡など、様々なスタイルが順次掲載されていてバラエティに富んでいますね。
打田:旧『アンデル』は長篇連載主体でしたが、今の『アンデル』では意識して読み切りを多く企画しています。気軽に入れる間口の広さがほしいと、短いものや絵で見られる頁も増やしました。80ページという薄さは制約ではありますが、普段から文芸誌を読んでいるわけではない方でも、薄かったらなにかの拍子に手にとってくださるかもしれない。お気に入りのノートを持つように携帯して、喫茶店で誰かを待つ間、電車の一駅間など、空いた時間にパッと開いてほしいと思ったんです。
深井:限られた誌面でも、短いものだったらスペースをとらなくても載せられます。表紙を開けてすぐの扉ページには、「よい言葉と恋よ。」と題してコジヤジコさんの回文を連載しています。9号の「遠い夏、蟬鳴く音。遠く波、切ない音。(とおいなつせみなくおととおくなみせつないおと)」は、上から読んでも下から読んでも同じなんです。回文も短い文芸だと私は思っています。
編集部の好きを込めたテーマ企画

――読み切りの短篇小説やエッセイでは、テーマを掲げたシリーズも多いですよね。そのテーマも「手仕事」、「異世界転生」があると思えば「もふもふ」とかあって面白い。
深井:「シリーズ 人形」は、個人的に人形が出てくる小説を読みたいという、単純な理由から発案したんです。「人形」を一つのテーマとしても、作家の方それぞれがまったく違うものを書いてくださるだろうから、それを読みたい。いずれアンソロジーとして単行本にしたい気持ちがあります。テーマについては、小田巻は「くらくら」をやりたい、打田は「てくてく」をやりたい、という風に意見を出しあって進めています。
――テーマを決めたシリーズが多いということは、けっこう先の方まで掲載ラインナップを決めているんですか。
打田:年間を通しての連載はもちろん事前に決まっていますが、短篇は、走りながら「こういうのもやるといいね」とか「この方に書いていただくなら、こういうテーマかな」と随時加えています。ただ紙幅が限られているので、お願いしたいものはいろいろあれど、気をつけないと溢れてしまうのが悩みどころです。
深井:ぴったり80ページにするために毎号、パズルですね。
――書き手は、純文学とエンタメの両方にまたがっていますね。
打田:そのあたりもきっちり決めているわけではなくて、このテーマならこの方に書いていただきたいと編集部なりに考えた結果、今のバランスになっていきました。
――雑誌の方向性として女性読者を重視しているのでしょうか。
打田:この雑誌の編集者に女性が多いということはあるかもしれないですけど、特に女性むけに作ってはいないですね。ただ小田巻くらいの世代が「こんなのどう?」と友達に手渡したくなるようなイメージは大切にしていて、表紙の色味とあいまってフェミニンな印象を持たれた方は多かったかもしれません。
――誌名の『アンデル』は「物語を編む」、「○○&Literature(○○と文学)」の「&L」からつけられたそうですね。
打田:はい、我々の「編んでる」気持ちも含むような、個人的にも好きな語感です。誌名に関連して言うならば、冊子の背にいつも小さく一文が入っていることに、お気づきでしょうか。毎回、「読んでる、跳んでる、弾んでる」、「読んでる、呼んでる?」、「読んでる、まどろんでる」など、なんとなくカバーのイメージや季節感とも通ずるような一言を入れているんです。
9月は夏の疲れが出る頃かなとか、表紙デザインの鳥が休んでいるような風情もあったので「休んでる、読んでる」にしました。
社内からも「その『~んでる』シリーズはいつまで続くの?」なんて聞かれ、なかには自分が考えた「~んでる」候補を伝えてくれる人もいて、そんなムードに助けられています。
深井:ほんのノリで始めたようなところはあるんですけど。
打田:読者のなかには気づいていない方もいらっしゃるだろうし、編集部の遊びに過ぎませんが、三浦が表紙デザインを構想する時も「~んでる」のイメージで絵コンテを描いてくれています。
社員の手作りと私物で創る表紙
――三浦さんは旧『アンデル』でもデザインを担当されていましたが、現『アンデル』に関してはどのように始められたんですか。
三浦:新創刊にあたり、どんな表紙にしようかと編集部と意見を出しあって、とにかく手にとりやすく、親しみを感じるものにしたいというのが基本方針になりました。以前の表紙は絵画だったので、写真でガラッと変えたい気持ちもありつつ、旧『アンデル』が持っていた手触りや風合いは踏襲したかったんです。
深井:紙も各種試して、手触りにこだわりましたよね。
三浦:表紙は、写真の色調を再現したかったらもっと白くて発色のよい紙にする方がいいんですけど、これは逆に発色はそれほど求めないというか、味わいとして手触りや風合いを優先させた感じです。写真の表紙ではあまり使わない紙なんです。
そして300円という価格を実現するためには予算をかけられないけど、社内にデザイン室と写真部がありますし、お金をかけなくても面白いことはできるんじゃないか。そんな感じでスタートして、表紙の小道具のほとんどは社員の私物を借りています。思い切って、手作り感溢れるものにしたんです。文芸誌の表紙でしかできないビジュアルを作りたいという気持ちがありますね。
――8号の表紙に写った動物の手らしきものも私物なんですか。
三浦:暑い時期なので、ちょっとひんやりしたイメージの表紙にしたくて、ひんやりといえばタイルかなと思い背景に選んで、ここになにかアクセントがほしい、動物の手はどうだろう、白熊の手なら冷たい感じが出せるかなと考えました。でも、白熊のぬいぐるみを持っている社員はいなくて、買おうとしても気に入るものがない。そんな話を社内でしていたら、「私、作れるかも」という編集者が現れまして、スリッパにふわふわした布を付けて、爪の部分は100円ショップで売っているプラスチック容器を半分にカットして、それを爪に見立て樹脂を塗って作ってくれたんです。9号の表紙は、ふわふわした綿をはかりに乗せて、陶器の鳥をテグスで吊るしたんですけど、はかりは三浦、鳥は深井の私物です。
打田:そんな感じでいつもワイワイ進めていて、『アンデル』は我々にとってなんだか楽しい部活動のようでもあります。
「持っていて楽しい」デザインに
――執筆者リストを裏表紙に入れて、表表紙は誌名くらいで文字をあまり入れないデザインは、旧『アンデル』から受け継がれていますね。
小田巻:とにかく持っていて楽しい、可愛いという風に思ってもらえると嬉しいです。
打田:もちろんこれだけの方々が書いてくださっているので表紙にお名前を出さないのはもったいないのですが、パッと目について手にとって、なにがあるの? と開いてもらえる、そういう吸引力のあるビジュアルを目指しています。
深井:その意味で、SNSに『アンデル』の写真をアップしてくださる読者が多くいて、ご自分のティーカップと一緒に撮ったり、画像として愛でてくださっているのはありがたいですね。
小田巻:「全国銘菓帖」という、47都道府県のご当地銘菓を出身作家さんに紹介してもらう連載コラムがあるのですが、以前、「『銘菓帖』がきっかけで、買いました!」とお菓子と『アンデル』を並べて写真を投稿している方を見かけました。
打田:つい昨日聞いた話ですが、たまたま最新号を読んだ方が、「さかのぼって読みたいな」と思って、1号からまとめて買ってくださったんですって。1冊300円ですから、8冊、9冊をまとめて買っても3000円に届かないせいか、大人買いしてくださる方もいらっしゃるんだなと手を合わせました。その方は、朝比奈秋さんの長篇連載「アンチエイジングクラブ東京」を最初から読みたかったそうなんです。
読書への新しい入り口を目指して
――掲載作は、いずれ単行本化されるんですよね。
打田:まだ連載中のものばかりですけど、長篇枠の朝比奈さんや小川糸さんの連載はすでに反響が大きく、編集部としても今から本になる日が楽しみです。
小田巻:1号に掲載された石田夏穂さんの短篇「ノーメイク鑑定士」は、3月に刊行された同タイトルの単行本に収録されています。
打田:単行本に収録する1作を『アンデル』に掲載後、読者の方の記憶が新しい内に単行本を刊行できれば、『アンデル』をきっかけにその先の読書につながるのかなと思います。
――『アンデル』を刊行するうえで意識した小説誌、文芸誌はありますか。
打田:我々が『アンデル』を復刊する前、『スピン』(河出書房新社)や『GOAT』(小学館)が話題を集めていて、小説誌の機運が盛り上がっていることを嬉しい、ありがたいなと思っていました。意識というより仰ぎ見る感じでしょうか。『アンデル』は「小さい文芸誌」としての制約の中で、このページ数でどの号からでも気軽に手にとってもらうにはどうすべきかを中心に考えていきました。
深井:「読み切れて嬉しい」と感想を書かれている方がいました。長いものを読む途中で挫折した経験もあるなか、「一時間で読み切った」ということをポジティブに発信されている方がいて、コンセプトがうまく伝わったなと思いました。
打田:新創刊の前に内容見本を作った際、“「豊かな一時間」をあなたと共に――”というキャッチを書いたんですが、それを体感してくださっている方がいたとしたら嬉しいですね。
――期間限定の雑誌ですから、その後の文芸編集部の仕事につなげていこうという意識もお持ちですよね。
打田:もちろんそうです。読者の方にとって物語への入り口、読むきっかけになればと思いますし、編集部にとっても新しい作家や読者の方との出会いの場になればいいなと考えています。
■書誌情報
『アンデル10』
価格:330円
発売日:2026年10月9日
出版社:中央公論新社
バックナンバー:https://www.chuko.co.jp/mook/andel_list.html




























