『機動警察パトレイバー』カミソリ後藤は70代になってどう変わった? 小説『寿司屋の後藤』に降り積もった30年という歳月

 巨大な歩行型作業機械「レイバー」が、急速に発展・普及した近未来の世界。日本の警視庁は相次ぐレイバー犯罪に対応すべく、曲折を経て、特科車両二課中隊――通称「特車二課」を設立。そこに集まった面々と、専用のパトロールレイバーーー通称「パトレイバー」の活躍を、OVAから始まり、漫画・小説・映画と、マルチメディア展開で描いた作品が、「機動警察パトレイバー」シリーズだ。長期にわたるシリーズになったため、作品に携わるクリエイターの数は多いが、中核となるメンバーは、漫画家のゆうきまさみの意向で作られたヘッドギアというグルーブである。ゆあきまさみ・出渕裕・髙田明美・伊藤和典・押井守の五人だ。

 その「機動警察パトレイバー」シリーズが、2026年になって新たな動きを見せている。新作となる全3章構成で劇場公開される『機動警察パトレイバー EZY』の第1章が、今年の5月から上映された。第2章は8月、第3章は来年の3月に上映予定である。この作品は、人間が搭乗するスタンドアローン型のレイバーが時代遅れになり、自立型ロボットへの代替が進んだ2030年が舞台になっている。この作品に合わせてのことだろうが、かつて漫画『機動警察パトレイバー』を執筆したゆうきまさみが、32年ぶりにシリーズ新作を「週刊ビッグコミックスピリッツ」2026年25号に発表。また、最初のOVAからシリーズの構成と脚本を担当した伊藤和典(『EZY』のシリーズ構成と脚本も担当している)は、かつての特車二課の隊長の後藤喜一と、その部下たちの30年後を描いた小説『『機動警察パトレイバー』寿司屋の後藤』を上梓。昔からのシリーズのファンを、喜ばせているのである。

 とはいえこの小説は、シリーズのことを知らない若い人には、ちょっと敷居が高い。とりあえず物語世界と登場人物を理解するために漫画『機動警察パトレイバー』を、作中に出てくる過去の話を理解するために押井守監督、伊東和典脚本の映画『機動警察パトレイバー2 the movie』を摂取しておいた方がいいだろう。おっと、言い忘れるところだった。シリーズは各作によって、ストーリー展開や設定が違っていることがある。本書の帯に「脚本家自ら描くシリーズ正統(?)続編」と〝(?)〟が入っている理由は、そこにあるのだろう。だから本書は、ひとつの在り得た未来として読むのが、いいのかもしれない。

 物語の舞台は熱海の駅から徒歩三分のほどの路地裏にある「寿司屋の後藤」だ。まるで古民家のような、寿司屋らしくない店だ。そこの店主が、70代になった後藤である。熱海で暮らすようになって6年、店を始めて4年であり、常連客も何人かいる。特によく来るのは、芸妓見習いの莉子、マッサージ師のブンさん、バブル期には羽振りのいいサラリーマンだったが、今は地元に戻って農家の手伝いをしている善ちゃんの3人だ。途中から、ちょっと不思議な力を持つウサミミさんも加わる。子猫を拾った後藤のドタバタ騒ぎ。芸妓見習いという現状に対する茉子の悩み。店で起こる怪奇現象。後藤の〆サバについての迷い。こんな感じで、寿司屋の日常が描かれる。後藤とウサミミさんの次元に関する会話など、そのままSFにしてもいいのではないかと思うほど刺激的。一方で、寿司ネタの話が詳細に綴られていたりする。飄々とした後藤と、ひと癖ある常連たちとのやり取りが、とにかく楽しいのである。

 それとは別に、かつての特車二課の面々(特車二課ではないが、お馴染みのあの人も)が、次々と店にやって来る。篠原遊馬、泉野明、太田功……。ああ、後藤だけではない。みんなの上にも、30年という歳月が降り積もっている。なんとなく納得できる人生もあれば、思いもかけない人生もある。ここがシリーズのファンにとっての読みどころ。登場人物に自分の歩んできた人生を重ね合わせ、深い感慨を覚えるはずだ。

 それにしても後藤が寿司屋か。最初はどうなのと首をひねったが、ゆうきまさみのカバーイラストを見て、なんとなく受け入れてしまった。そして読み進めるうちに、これはこれで似合っていると感じるようになった。作中でウサミミさんが後藤に、「わ。後藤さん、悪い顔になってる」という場面で、漫画の後藤の顔が浮かんだ。過去にはカミソリ後藤と呼ばれる切れ者だったそうだが、特車二課では昼行燈のように見え、しかし厳しい状況の中でしたたかな立ち回りをした後藤喜一。きっと彼の本質は変わっていないのだろう。そのことにホッとする。そして「機動警察パトレイバー」シリーズと付き合い続けてきてよかったと、心の底から思うのである。

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