細木数子から6億円の訴訟を起こされた暴露本『魔女の履歴書』の内容とは? 『地獄に堕ちるわよ』では描かれなかった暗黒面
4月30日のAmazon売れ筋ランキング「本」部門で49位にランクインしていたのが、溝口敦の『細木数子 魔女の履歴書 新装版』(講談社文庫)である。Netflixにて配信が始まった細木数子を題材にしたドラマ『地獄に堕ちるわよ』の影響が見て取れる。
ドラマ『地獄に堕ちるわよ』が描く、細木数子のピカレスクな生き様
『地獄に堕ちるわよ』は、占い師・実業家であった細木数子を題材にした配信ドラマである。2006年、ブームの絶頂期にあった細木数子に対し、作家・魚澄美乃里がその反省を小説化するために取材を申し込む。細木は取材に対して自らの半生を語るが、その内容には虚実が入り混じり、関係者の証言も錯綜。嘘と真実が交錯する中から、欲望にまみれながら戦後から平成までを生きた一人の女の生き様が見えてくる……という内容だ。ある種のピカレスクロマンとして、細木数子という人間の人生を描いたドラマと言える。
そもそも細木数子がテレビに出まくり、社会現象的なブームを巻き起こしていたのが20年近く前の話である。学生だった自分は「この突然出てきたやたらと当たりのキツい占い師は一体なんなんだ……?」と思いながら見ていたが、本当に当時の細木数子ブームは凄まじく、中高年の男女、特に女性から多くの支持を集めていたように思う。一方でブームから20年ほどがすぎ、若い人にとっては当時の勢いは体感でわからないところもあるはず。その「一定年齢以上の人には『細木数子っていたよね』と思ってもらえ、若い人には『こんな人がいたのか』と興味を持ってもらえる」というポイントを狙って投げられた球が、『地獄に堕ちるわよ』なのだろう。
だが、溝口敦による『魔女の履歴書』を読めば、細木の半生は『地獄に堕ちるわよ』の内容とは相当に異なるものであることがわかる。『地獄に堕ちるわよ』の参考文献として使われたという本書だが、一方で出版当時には細木ブームに強烈な冷水を浴びせ、テレビ出演などから引きずり降ろし、細木サイドから6億円の訴訟を起こされた一冊でもある。その内容は、細木の悪行の数々を告発するものだ。
自伝の嘘を暴く『魔女の履歴書』、取材によって突きつけられた「反証」
『魔女の履歴書』は、細木数子が出版していた自伝『女の履歴書』の記述に対して、取材で得た反証を突きつけていく。『魔女の履歴書』によれば、細木は院外団の壮士だった細木之伴と、その愛人であるミツの間に生まれた。若い頃から客商売、それも家業であった「娘茶屋」でポン引き同然の仕事をして育ち、成長してからは水商売の店を開いては売却し、徐々に商売を大きくしていく。『地獄に堕ちるわよ』でもこの辺りの描写はあったが、『魔女の履歴書』に書かれているエピソードの方が数倍エグく、正直「Netflixのドラマといえども、これは映像化できなかったか」と納得半分、「それならやらなきゃいいのに」という気分が半分である。
溝口によれば、細木は随所で借金の額や、自分のビジネスパートナー兼愛人だった男の格について話を盛っており、例えば「10億の借金」と言っていたのが実際に推測すると1億前後だった……といったケースが頻発するという。『地獄に堕ちるわよ』は「細木が自分で話したこと」として盛っているほうのエピソードを採用しているところがあり、ドラマを見た後に本書を読めば、実際のエピソードのしょっぱさにゲンナリするはずである。静岡での一度目の結婚の顛末などはドラマと比較するとあまりに内容が異なり、「なんだかなあ」と言いたくなる。
『魔女の履歴書』では、島倉千代子に近づき、占いを軸に荒稼ぎするようになる細木の後半生についても、ボリュームを割いて解説する。島倉千代子が抱えていた借金をダシに搾取を繰り返したエピソードも壮絶だし、霊感商法まがいの手口で相談者から金をむしり取るスキームもえげつない。この辺りを読んでいると、細木というのは立派な詐欺師であり犯罪者なのではないかという気がしてくる。そして島倉千代子に関係するうちに細木はマスコミの力を知り、その経験が2000年代以降のテレビ出演につながっていく。90年代に霊感商法で訴訟を起こされまくっていた細木があれだけテレビに出まくっていたのは、ひとえに視聴者のウケがよかったからである。視聴率目当てで細木を出演させていたテレビ局に対しても、溝口は鋭い批判を加えている。
ドラマの限界と細木数子の正体、強欲さと執着に突き動かされた人生
ドラマ『地獄に堕ちるわよ』は、冒頭で「この物語は事実に基づいた虚構である」と前置きをしており、ドラマ自体の内容も戦後日本の歴史を背景に、虚実が入り混じった細木という人物の複雑さを描くことに注力していたように思う。しかし、『魔女の履歴書』を一読すれば、細木という人物にはそこまでの複雑さは存在せず、「あくなき強欲さと凄まじい執着心に突き動かされた人物」という印象に変化するはずだ。ドラマ制作陣の狙いはわかるが、正直なところ「細木という人物の描写としては、かなり手ぬるく中途半端なのではないか」と思う。そもそも、戸田恵梨香は熱演しているものの、後年の細木の威圧感に追いつけているとは言い難い。
ということで『魔女の履歴書』は、もしも『地獄に堕ちるわよ』を見て「細木数子ってどんな人だったんだろう」と思ったのなら、ぜひ目を通していただきたい一冊となっている。特にドラマがいかに細木の人生をいい感じに翻案し、そしてどこの部分に関して描写しなかったのかを追いかけながら読むのがオススメ。ドラマで描かれなかった細木の暗黒面を知れば、占いを軸にしたダークなビジネスの怖さや、一見怖いものなしに見えるNetflixの配信ドラマの限界すら見えてくるのである。
■書誌情報
『細木数子 魔女の履歴書 新装版』
著者:溝口敦
価格:770円
発売日:2026年4月15日
出版社:講談社
レーベル:講談社文庫