ISHIYA × 安田潤司監督『BRUO/ノイズ』対談 近未来サイバーパンクの世界観に託した“ハードコア精神”
ハードコアパンクバンド・DEATH SIDE/FORWARDのボーカルとして知られるISHIYAが、初の小説『BRUO/ノイズ』(blueprint)を上梓した。音楽や文筆のフィールドで一貫して提示してきた「命に優劣をつけない」という感覚、暴力と搾取への違和感、そして社会の“ダブルスタンダード”への苛立ちが、近未来サイバーパンクの物語として結晶化した一冊だ。
対談相手は、映画『ちょっとの雨ならがまん』などで1980年代パンクシーンを記録してきた安田潤司監督。小説としての手触り、発表までの道筋、ヴィーガンや政治意識との接続、さらにはAI活用や次回作構想まで。ISHIYAの「饒舌な衝動」の正体に、真正面から迫る。
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ハードコアど真ん中の人が、小説を真正面から書いた前例はない
安田:『BRUO/ノイズ』の刊行おめでとうございます。さっそく読ませていただいて、すごく面白かったです。想像していたよりも描写が丁寧で、「あ、ISHIYAってちゃんと描写する人なんだ」と驚きました。もっと“物語感で走る”タイプなのかと思ったんですけど、物語というより、細かい設定の積み上げで世界が立ち上がっていく。世界観の“ビジュアル”を割と明確に持っている感じがしたんですよね。それをどう言葉にするか、どう表現するか——初めての小説でそこまでやる集中力がすごい。ページ数以上に、世界観のボリュームが大きかった。まずそのエネルギーに感動しました。
ISHIYA:ありがとうございます。
安田:サイバーパンク的な系譜——ウィリアム・ギブスン以降の流れも真正面から受け止めて書いてると思ったし、ただ“小説的な育ち”だけじゃなくて、漫画や映画やいろんな要素が一つになっている感じもあった。文章もワイルドで、技巧を見せるより「自分が持ってるものを全部出した」っていうストレートさがある。そこが本から伝わってきたのも大きかったです。
ISHIYA:技術は全くないんで。そもそも、小説を書くのが初めてだから。
安田:いやいや、そんなことないですよ。センスがあるから、あそこまでいく。そもそも書き方を誰かに習ってないですよね?
ISHIYA:習ってないです。ただ好きで、小説はたくさん読んでるし、映画も見てる。頭の中の映像みたいなものを言葉にする感覚で、音楽とは違う形で自分の考えを表現してみた感じです。
安田:でも、読めるのと書けるのは全然違うから。あれだけの世界を構築できるのは本当にすごい。処女作としての初期衝動が感じられて、かっこいい。だから本当に一気に読んじゃいました。
ISHIYA:これまで人の感想、怖いからあんまり聞けなかったんですけれど(笑)、素直に嬉しいです。それに小説を読む人、ハードコア界隈にそんなにいないかなって気もするし。
安田:そもそもパンクスで“書く人”がいないでしょ。
ISHIYA:町田康ぐらい?
安田:ただ、町田康はある意味、サブカル寄りじゃないですか。ISHIYAみたいなハードコアど真ん中の人が、小説を真正面から書いた前例はないんじゃないかな。エッセイ的なものはあるかもしれないけれど、こんな王道のSF小説を書いたなんて話はまったく聞いたことがない。
ISHIYA:ハヤカワ文庫SFみたいな話だからね(笑)。
既存のやり方だけでやってたら“パンクじゃねえじゃん”
安田:普通、小説を書いて世に出すとなった場合、新人賞とかに応募してデビューするじゃない。でもISHIYAの場合は、noteに書き始めて、発信して、反応を集めて、まとめて本にしていくというスタンスだよね。最初に出した『ISHIYA私観 ジャパニーズ・ハードコア30年史』(2021年/blueprint)もそうだし、今回の小説ももともとは小説投稿サイトに掲載していたんでしょう。そのスタンス自体が、いい意味でインディペンデントで、パンクスらしくてかっこよかった。後の世代にとっても「こういうやり方があるんだ」って、スタイルを作った感覚もある。
ISHIYA:それは狙ったとこもありますね。既存の媒体、既存のやり方だけでやってたら“パンクじゃねえじゃん”みたいな。
安田:そこがブレない。今回も、ISHIYAが日頃言ってる、ヴィーガンとか、搾取への反対とか、「命に優劣をつけない」って部分がテーマとして真ん中にある。全部そのまま盛り込んでるから、すごく饒舌。
ISHIYA:言いたいこといっぱいあるんで、長くなっちゃった。最初はもうちょっと短かったんですけど、編集者にも読んでもらって、それこそ文学賞の審査員をやってる人なんかにも読んでもらって、アドバイス通りに直したら長くなった。
安田:でも、長さはぜんぜん気にならなかったな。言いたいことが溢れてる感じが出てたし、処女作としてはそれでいい気がする。綺麗にまとめてもしょうがないというか。あれを感覚で出せるのがすごくISHIYAらしい。
ISHIYA:バンドで表現したいことを、形を変えて出してるようなものですからね。
安田:オープニングのところで、Crassの「End Result」の歌詞を引用しているじゃない。もう掴みで勝ってる。
ISHIYA:この世界観はCrassしかないだろう、って思って。最近は翻訳もすぐできるから、歌詞の意味も細かく理解できて、「あ、俺が言いたいことと一緒じゃん」って感動したんですよね。もう50年近く前から、今の俺が言いたいことを歌ってたのかって。
最前線のパンクスが、なぜ文筆や小説に向かったのか?
安田:一つすごく興味があったのは、ISHIYAって最前線のパンクスだったわけじゃないですか。そこから、なぜ文筆や小説に向かったのか。
ISHIYA:最初は……パクられた時に留置所でやることないんで、ノートに書いてたんですよね。捕まった時、鬱屈したものを発散するには、描くか、書くか、しゃべるか、ぐらいしかない。絵は下手だったけど、でも文章を書くと発散できる。
安田:何を書いてたの?
ISHIYA:ただ思ったことを、感情を言葉にして、ずらずらと。歌詞みたいなもんですよ。あとで歌詞の参考になるかも、ぐらいの感覚。とにかく閉鎖空間でイライラして、殴れないし暴れられないし、文句言ったら罰が増えるだけ。だから感情を文字にして、それを読むと、ちょっと落ち着く。精神安定剤みたいな感じだった。
安田:そこから文筆業として書くようになるには、もう一段階ありますよね。
ISHIYA:映画の感想をブログに書いてたら、「文章面白いから映画評書いてよ」って言われて書きはじめたのがきっかけですね。その映画評はギャラはなかったんですけど、その繋がりから別の友達がblueprintを紹介してくれて、担当編集者の松田さんに繋がって、リアルサウンドで書き始めたんです。文章のプロの編集者に「ここはこうじゃない」って直してもらって、だんだん成長していった感じです。気がつけば、blueprintとは長い付き合いになりました。
安田:書く時に、読む人のことってどれくらい意識します?
ISHIYA:意識するというより、「ちゃんと理解してもらうにはどうするか」を考えています。上から目線だと反発が起きるじゃないですか。だから、自分はこう思う、こういう話だよ、ってポンと置くイメージ。押すんじゃなくて、置く。食べるかどうか、美味しいかどうかはあなたが判断して、って感じですね。
安田:それって、バンドで表現する時とは違う?
ISHIYA:バンドの時はもっと押し付けに近い。ライブなら「こうだぜこの野郎!」みたいなところがある。でも物書きだと、読者との間にポンと置いて、「あなたたちどうする?」って相手に委ねる部分がある。
安田:なるほど。今回の物語は「レスポンド・シティ」という巨大ドーム都市が舞台になっていて、「ノクタ・ルーモ」という近未来サイバーパンクの組織が出てくるじゃないですか。もっとローカルな人間関係の群像劇が出てくるかと思ったら、割とおしゃれな設計で、きっちり世界観を作り込んでた。
ISHIYA:身近な話にしちゃうと生々しさが出ちゃって、読み手が嫌かなと思ったんです。テーマ的に合わない。だから『ブレードランナー』とか『時計じかけのオレンジ』みたいに、SFで別世界と思わせておいて、実は現実のことを言っているという構造にした。気づく人が気づけばいいかなって。
安田:ライブや発言を見てると、ISHIYAが持っているテーマの軸はずっと同じですよね。
編集・松田:ISHIYAさんから私に小説が送られてきたときは、かなり意外ではあったんですけれど、ISHIYAさんにはハードコアパンクスとしての信念があるじゃないですか。ISHIYAさんの信念って、一般社会とはズレてる部分もあると思うんですけれど(笑)、だからこそ物語にして世に問う価値があると思いました。
ISHIYA:当の本人はその社会とのズレに悩んでる……ってほどでもないけど(笑)。
AIは“丸投げ”だとつまらない
安田:今、AIも含めて情報環境が大きく変わってきていますよね。小説家になりたい人が、とりあえず書いた原稿をAIに読ませて「どうすれば最適か」って聞いたり、直してもらったりもできるじゃないですか。ISHIYAもAIを活用したりする?
ISHIYA:科学的な部分のファクトチェックとかはAIにやらせた。あらすじを読ませて「学者として読んだときに、科学的におかしいところある?」って。AIは助手としては最高。
安田:わかる。企画の芯までAIに委ねるとぜんぜんダメだけど、サポート業務に使うのはすごく良いよね。
ISHIYA:小説を書きはじめた最初の頃、AIが「先のプロット書きましょうか」って言うから、試しに書かせてみたら本当につまんなくてびっくりした(笑)。結局、ある情報を組み直してるだけだから、新しいもの、誰も見たことないものを書きたいなら使えない。でもサポートならいける。
安田:校閲もAIでできるようになってきてますよね。
ISHIYA:いま作られている本なんかは、校閲者を入れるコストをカットするためにAIでやってるなんて話もありますね。
ヴィーガンは“パンクの信念”と繋がっていった
安田:今回の小説は、命に優劣はないっていうISHIYAの思想を物語にしたものだけれど、その延長でISHIYAはヴィーガンになっているわけじゃない。ヴィーガンになったきっかけは?
ISHIYA:海外の友達にヴィーガンが多くて、ツアーで一緒に生活してたから、そういうスタイルがあるってことは認識してた。やつらは無理にヴィーガンを押し付けてこないし、むしろいいやつらだった。で、俺は肉は鶏肉だけは食べてたんだけど、そのうちに鶏肉を食うと体調が悪くなって、「じゃあこの際ヴィーガンやってみるか」って。やってみてダメならやめればいいと思ったら、自分の中で全部が繋がって、ヴィーガン最高じゃんってなって今に至る。
安田:一般の人も「動物は殺したくない」とは思ってるのに、そこは見ないようにして欲や美味しさを優先してる人がほとんどですよね。そこにまっすぐ突きつけられると、自己否定されたみたいになるから反発も起こる。だから押し付けないようにしているわけですよね。
ISHIYA:そう。戦争だって止めた方がいいのに止められない。人間は志が低いというか、社会のシステムを変えるための技術が追いついていないというか。
安田:パンクの人は実は志が高くて、具体的に実践していくからこそ煙たがられる部分がありますね。
ISHIYA:俺の中では、人間同士の戦争、暴力、搾取って、人間が動物にやってることと同じなんだよね。だから小説でも、音楽でも、「全部一緒なんだよ」って伝えたい。ただ、それをそのまま言うと反発を受けるから、言い方を考えてる。
安田:次回作も、もう動き始めてる?
ISHIYA:いま連載してるコラムをピックアップして、インタビューも入れて、テーマはこの小説と同じだけど別角度、みたいな本は刊行されます。あと小説としては、ホラーを書きたいな。
安田:今回、ハードコアの連中が出てこないのも面白かった。現実に近づくと生々しくなるから?
ISHIYA:そう。現実だと文句も出るけど、キャラにしちゃえば空想だから(笑)。面白い人は周りに死ぬほどいるんで、いつかは現実の世界を舞台にした小説もやりたいですけどね。
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ISBN:978-4-909852-64-9
出版社:株式会社blueprint
■書誌情報
『BRUO/ノイズ』
著者:ISHIYA
価格:2,900円+税
頁数:354頁
発売日:2025年11月5日
ISBN:978-4-909852-64-9
出版社:株式会社blueprint