東京創元社「新刊ラインナップ説明会2026」レポ AIバディもの、「市立高校シリーズ」最新作から不死者の物語まで
2026年2月13日、東京創元社の「新刊ラインナップ説明会2026」が都内で開催された。会内では池澤春菜氏による司会進行のもと、著者や翻訳者のゲストを交えながら注目の新刊作品について紹介があった。当レポートでは各ジャンルの新刊紹介の模様を中心にお伝えする。
昔気質の刑事×人工知能のバディ警察小説
海外ミステリで特に注目の新刊として紹介されたのは以下の3冊。
・エリーザ・ホーフェン/浅井晶子訳『暗黒の瞬間』(既刊)
・ケイト・モートン/務台夏子訳『時計職人の娘(仮)』(2026年夏)
・ジョー・キャラハン/吉野弘人訳『瞬きすら許さない』(2026年3月)
このうち、会内では『瞬きすら許さない』の翻訳者である吉野弘人氏がゲストとして登壇した。
『瞬きすら許さない』は、新設の捜査チームを率いることになった昔気質の刑事が、ロックという名の人工知能とコンビを組んで捜査に挑むという警察小説だ。同作に登場する人工知能のロックについて吉野氏は「人工知能の相棒と聞くと冷たいキャラクターのように思われるかもしれないが、主人公との会話のやり取りでユーモラスに感じられる場面もあるので、楽しい読み味になっている作品だと思います」とコメント。『瞬きすら許さない』は英国推理作家協会賞最優秀新人賞を受賞しており、ミステリとしての読みどころについて吉野氏は「人工知能という最先端の技術を扱った作品ですが、核には正統的な捜査小説としての面白さがあり、更には娯楽要素の他にも深いテーマを持っています」と述べた。
注目の青春ミステリシリーズの作者2人が登場
国内ミステリでは注目の学園青春ミステリシリーズの最新作が取り上げられた。
・米澤穂信『倫敦スコーンの謎』(2026年4月)
・似鳥鶏『新学期にだけ見える星座』(既刊)
・雨井湖音『僕たちの青春と君だけが見た謎』(2026年2月)
会内では似鳥鶏(にたどり・けい)氏と雨井湖音(あまい・こおと)氏がゲストとして登壇し、自身の作品について語った。
似鳥氏の『新学期にだけ見える星座』はデビュー作『理由あって冬に出る』より続く<市立高校シリーズ>の第9作。同シリーズは探偵役が代替わりしていく点に特徴があるミステリだが、最新作では中内修太朗と岩境ひなという新たなキャラクターが登場する。登場人物について似鳥氏は「<市立高校シリーズ>における探偵役が代替わりしていくというコンセプトは、荒木飛呂彦さんの漫画<ジョジョの奇妙な冒険シリーズ>から強い影響を受けています。最新作で登場する岩境ひなは、実はデビュー時から構想があった人物なのですが、あまりにも濃すぎるキャラクターゆえに作品に出すのを一旦止めておいたんです。9作目で満を持しての登場ですが、果たしてどのようなキャラクターになっているのかはぜひ小説を手に取ってお確かめください」と同作への期待を高めるコメントを述べた。
雨井湖音氏は「東京創元社×カクヨム 学園ミステリ大賞」を受賞した『僕たちの青春はちょっとだけ特別』で2024年にデビュー。同作は高等支援学校を舞台にした連作青春ミステリで、今回の『僕たちの青春と君だけが見た謎』はデビュー作に続くシリーズ第2弾となる。雨井氏自身も現在、高等支援学校の職員として働きながら小説を執筆している。シリーズについて雨井氏は「1作目は1学期の物語を描きましたが、2作目は2学期。この期間は夏休みから次の長期休暇である冬休みに入るまでが長く、かつ行事も多いので、1作目とはまた違った雰囲気の作品になっていると思います。」とコメントし、「自分が想像した以上に多くの読者の方々にデビュー作を温かく迎え入れていただいたという思いがあります。その読者の皆様を信頼し、1作目よりもう少し踏み込んだ形で青崎架月の物語を描いてみましたので、ぜひ読んでいいただければ幸いです」と読者へのメッセージを述べた。
“不死者の一族”を巡る物語
ホラーおよびファンタジーでは主に以下のタイトルが紹介された。
・上條一輝『<あしや超常現象調査>シリーズ第3作(仮)』(2026年内)
・エドワード・ケアリー/古屋美登里訳『イーディス・ハラ―(仮)』(2026年夏)
・フランシス・ハーディング/エミリー・グラヴェット絵/児玉敦子訳『千の目が光る森』(2026年2月)
・白鷺あおい『イザベラ・バード、奥州で妖怪に出会う(仮)』(2026年4月)
・庵野ゆき『竜の医師団5・6』(2026年5月・6月)
・川野芽生『不死者の物語』(2026年秋)
このうち『不死者の物語』の著者である川野芽生氏がゲストとして登壇した。『不死者の物語』は“不死者の一族”が辿る数奇な運命を描く連作集。物語は永遠の命を持つ“不死者”と限りある命で生きる“宿命者”が存在する世界になっているが、川野氏は「不死の人間と定命の人間とのラブロマンスというのは物語の定型の1つになっていると思いますが、この定型について私自身は違和感を抱いていました。では不死の人間と定命の人間が恋愛や結婚が成立する状況に違和感が無い設定とはどのようなものだろうか、と考えた時に不死者同士が婚姻・生殖できない世界というアイディアが生まれました」と述べた上で、「不死よりも恋愛や結婚といったテーマの方が私にとっては非常に馴染みのないものですので、その点で同作をファンタジーと捉えています」と自作について語った。
自主的にネット公開した短編から始まった連作集
文芸その他のジャンルからは以下の作品が紹介された。
・B・S・ジョンソン/若島正訳『不運な奴ら』(2026年4月)
・ペク・スンヨン/小西直子訳『手紙の店クルウォル(仮)』(2026年内)
・ダニエル・クラウス/佐田千織訳『ホエールフォール(仮)』(2026年秋)
・前川ほまれ『藍色時刻の君たちは【文庫版】』(2026年秋)
・秋永真琴『森島章子は人を撮らない(仮)』(2026年4月)
最後の登壇ゲストは『森島章子は人を撮らない(仮)』の作者である秋永真琴氏。同作は、人を惹きつける不思議な魅力を備えた写真を撮るが、ポートレートはかたくなに撮ろうとしない大学生の森島章子を中心に描かれる連作短編集である。同短編集の成り立ちについて秋永氏は「第1話に当たる短編は数年前、自主的に書いてネット上で公開したもので、その時は特にシリーズ化する予定はありませんでした。ですが『ちょっと続きを書いてみようか』と思い、また一編、また一編と重ねていく内に森島章子という人物を様々な視点から眺める連作が出来上がっていきました」と同作の成り立ちを語った上で、「一般文芸枠ということでご紹介いただきましたが、ヤングアダルト小説のような手触りがある作品もなっていると思います」と述べた。
『カフェーの帰り道』の嶋津輝氏からの特別コメントも
SF作品については以下のタイトルについて編集部より紹介があった。
・クリストファー・プリースト/古沢嘉通訳『不死の島へ』(2026年2月)
・R・F・クァン/古沢嘉通訳『冥府行』(2026年内)
・理山貞二『すべての夢、果てる地で』(2026年夏)
・柞刈湯葉『記憶人シィーの最後の記憶』(2026年内)
「新刊ラインナップ説明会2026」では新刊紹介のほかにも、第174回直木賞を受賞した『カフェーの帰り道』の作者である嶋津輝氏の特別コメントを収めた動画が公開された。この動画は東京創元社のYouTube公式チャンネルで視聴することが出来る。
また、説明会終了後には登壇したゲストのうち似鳥鶏氏・雨井湖音氏・川野芽生氏・秋永真琴氏によるサイン会が行われた。会場には本の販売コーナーのほか、東京創元社のマスコットキャラクターである「くらり」のぬいぐるみを撮影できるコーナーも設けられていた。
東京創元社が2026年に刊行を予定している新刊については、説明会で紹介されたもの以外にも多数ある。同社は2026年の元日に「Web東京創元社マガジン」にて各ジャンルのラインナップを紹介する記事を公開しているので、興味がある方はチェックすることをお勧めする。
【新年特別企画】2026年 東京創元社 翻訳ミステリ&文芸&ノンフィクション ラインナップのご案内|Web東京創元社マガジン
【新年特別企画】2026年 東京創元社 SF&ファンタジイ ラインナップのご案内|Web東京創元社マガジン