東野圭吾の大ベストセラー『クスノキの番人』なぜアニメ化された? “絵が動き話すこと”と合致する物語

 東野圭吾の大ベストセラー『クスノキの番人』が、作者初のアニメ化作品(劇場アニメ)になったことは、ちょっと意外であった。もともと東野作品は映像化されることが多く、多数の映画とテレビドラマが作られているが、ほぼ原作はミステリーである。また、東川篤哉原作の『謎解きはディナーのあとで』、米澤穂信作品を原作にした『小市民シリーズ』、知念実希人作品を原作にした『天久鷹央の推理カルテ』など、近年、ミステリー作品のテレビアニメ化が相次いでいる。だから東野作品ならば、まず「ガリレオ」シリーズがテレビアニメ化されるのではないかと思っていたのだ。

 しかし結果は『クスノキの番人』である。もちろん、アニメ化作品のセレクトに関しては、さまざまな要因が絡み合ってのことだろう。だがそれは作品を受け取る側にとってはどうでもいいこと。なぜ『クスノキの番人』なのか? 原作の小説の内容から、アニメ化の理由を考察してみたい。

 以前、「リアルサウンドブック」の書評で本書を取り上げたことがあるので、粗筋を引用させてもらおう。「悪徳社長と衝突し、会社を辞めた直井玲斗。生活に行き詰まって会社に盗みに入り、捕まってしまった。しかし、柳澤千舟という女性に雇われた弁護士の働きにより釈放される。玲斗は知らなかったが、千舟は彼の伯母である。特に将来のことなど考えていない玲斗は、千船から命じられて〝クスノキの番人〟になるのだった。

 東京から電車で一時間、そこからバスと徒歩で到着する月郷神社には、巨大なクスノキが屹立している。大きな穴があって洞窟のようになっており、棚が作られ燭台が置かれていた。満月と新月の夜、そこで〝祈念〟をする人の世話をするのが、玲人の主な仕事だ。だが、祈念とは何かという、肝心のことは教えてもらえない。訳の分からないまま仕事を続ける玲斗だが、祈念中のクスノキに忍び寄る、佐治優美という女性を捕まえたとことを皮切りに、さまざまな騒動にかかわっていくことになる」。

 引用終わり。物語には幾つかのラインがあるが、重要ものは三つである。ひとつは、主人公の玲斗の人生だ。地頭はいいが、育った環境があまりよくなく、犯罪者になりかかった若者である。成り行きでクスノキの番人になった彼が、幾つもの出会いと体験を経て成長していく。その過程が大きな読みどころだ。

 ふたつ目は、祈念を続けている佐治寿明と、父親の行動を怪しみ月郷神社にやってきた娘の優美の件だ。父親が浮気をしているかもしれないと疑っている優美に巻き込まれる形で玲斗は、寿明とその兄の過去を調べることになる。三つめは、玲斗の伯母の千舟の件だ。『ヤナッツ·コーポレーション』の顧問の千舟だが、その地位を追われようとしているようだ。

 他にも、大場壮貴という若者の祈念の件もあるが、ここで触れるのは控えよう。祈念とは何か。クスノキの番人の役割はどういうものか。作者が東野圭吾なのでミステリー的な興味でストーリーを引っ張っていくが、物語そのものは現代ファンタジーになっている。

 そのファンタジーの部分が、アニメ化に選ばれた理由のひとつではなかろうか。巨大なクスノキの木。その幹の内側の洞窟のような空間で行われる祈念。この場面は絵的な面白さがある。佐治父娘の件で、音楽が重要な役割を果たしているのも映像向きだ。

 さらにアニメ化ということを意識した今回の再読で改めて気づいたが、玲斗は行動的である。優美に引っ張りまわされたり、千舟に呼び出されたりと、受動的なところはあるが、かなり行動的であり、主張すべきときにはちゃんと主張する。アニメの最大の魅力は、絵が動き話すことだ。この物語は、それに合致している。そんなところにも、本書はアニメ化に選ばれた理由があるのではないだろうか。

 いやまあ、私が勝手に考えただけなので、外れているかもしれないが、それはそれで構わない。劇場アニメの『クスノキの番人』は、かなり原作のストーリーに沿った内容なので、まず小説を読んで、アニメとしてどのような表現をしているのか、確認してみてはどうだろうか。それもまた読書の楽しみなのである。

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