トランプの攻撃で注目、ベネズエラの実態とは? 潜入ジャーナリスト・北澤豊雄に聞く、その難点
アメリカによるベネズエラ攻撃が世界に衝撃を与えている。アメリカの行動は国際法違反だという声も多く上がっており、アメリカ・ロシア・中国の三国が力による現状変更をものともしないような“帝国主義の復権”という事態すら現実味を帯びてきている。
ただその一方で、拉致されたマドゥロは2013年の大統領就任直後から国家経済を悪化させ、24年7月の大統領選挙では不正をはたらいたとされながらも権力の座に居座りつづけた“独裁者”と見られていた。今回の攻撃はその圧政のもとで苦しい生活を送っていた人びとを“解放”したのだ、という見方もある。2016年から19年ごろをピークに「ベネズエラが経済破綻寸前」「食料や薬などのあらゆる物資が不足」「治安が悪化して略奪や殺人が頻発」といった報道がいくつも流れていたのを覚えている方も多いはずだ。
では実際のところ、ベネズエラ国民はどのような生活を送っていたのだろうか?
19年に3度、22年に1度マドゥロ政権下のベネズエラを訪れ、『混迷の国ベネズエラ潜入記』(産業編集センター)などの著作で生活者視点からベネズエラ滞在の記録を残しているジャーナリストの北澤豊雄氏に聞いた。
まず、19年にベネズエラを訪れた際の第一印象はどのようなものだったのか。
「入国前は報道の影響でまるで『北斗の拳』や『マッドマックス』のような世界が広がっているのではないかと想像していたのですが、現地に行くと人びとは意外と普通に生活をしていて、いささか拍子抜けしました。
ただ、ベネズエラの不思議なところは、まるで『2つの国』が同居しているかのようなところです。ショッピングモールやマクドナルドに行けば、多くのひとがわれわれと変わらない生活をしているようにも見える。でも、ちがうところに行くと危ない目にもあうことも少なくない。行動をともにしていたコロンビア人のジャーナリスト2人が、私がホテルで休んでいるあいだに外出して強盗にあい、身ぐるみを剥がされたこともありました」
北澤氏の語る「2つの国」の姿のうち、後者は当時の報道で流れていたイメージに沿うものだ。他方で、前者のような消費生活を送っていた人びとはそのためのお金をどうやって手に入れていたのだろうか。
「彼らは普通に公務員やサラリーマンをしているひとたちで給料は安いのですが、家族のだれかが海外で生活をしていてドルを送金してくれるので、それで生活が成り立っているのだと言われていました。逆に言えば、そういった送金のツテがなければ厳しい暮らしを送ることになってしまいます」
“普通”の生活ができるかどうかは、家族のだれかが海外で暮らしているかどうかにかかっている――。やはり歪んだ経済に思える。さらに北澤氏は、続く22年のベネズエラ訪問では別のかたちで経済のいびつさを感じたという。
「以前よりもドルがさらに出回っていました。一部のスーパーでは価格表示がドルになり、あちこちでドルを使っているひとを見かけるようになりましたし、給料をドルとボリバル(ベネズエラの通貨)の半々で受け取っているひともいた。そして、その給料に関して、高卒で露天のホットドッグ店に勤めている若者の給料が、知人の姪っ子で建築学科の大学院を出て会社に就職したひとの何倍もあるような状況になっていたんです。前者が日本円にして月給約3万5000円で、後者が約5000円でした。ちなみに最低賃金は約2300円で、国民の半分はその金額で暮らしているとも言われていました。
もちろんホットドッグ店員の給料も、いろんなところを駆けずり回って忙しく働いた結果得たものです。ただ、それにしてもかなりのジャイアントキリングだなと思いました。ある意味、インフォーマルな経済のなかにいたほうが居心地のいい国になっていたのかなと思います」
そのときの滞在では、経済面だけでなく政治面でも印象的なことがあった。
「『マドゥロ政権は独裁だ』とよく言われていましたが、テレビをつけたらエコノミストが普通に政権批判をする光景が広がっていました。流石にそのときだけかと思ってその後も注意して見たところ、どうもその日が特別だったわけでもなかった。その後、24年の不正だったとされる選挙を経て政府は反体制派への弾圧をさらに強めたとは言われています。ただ、それ以前のすくなくとも22年の段階ではそこまででもない印象でした」
最後に、そんなベネズエラ滞在経験を持つ北澤氏は、ベネズエラの現状と今回の攻撃についてどう思っているのだろうか。
「ぼくは、もはやベネズエラが自助努力で国として立ち直るのは厳しいと思っていました。あくまで専門家ではなく生活者の視点ですが、なにより医療やインフラがぼろぼろだったのが大きい。オスピタルと呼ばれる公立病院は診察無料ということになっています。でも医療用品や紙さえ不足しているし、血液検査や注射は病院の外の施設でやるということで実質有料になっていました。比較的富裕層のひとが使うクリニカと呼ばれる民間病院も厳しい状況は同じで、あるとき胸が痛くなった知人がそれなりの住宅街にあるクリニカに行ってもレントゲンがなかったと言っていました。
インフラについても、ベネズエラでは頻繁に停電があるのはもちろんのこと、水道さえ出ないこともままある。医療と水にアクセスできないというのは、当たり前ですが暮らしていくには相当厳しいことです。ぼくがベネズエラ国民だったら移住を検討するはずですし、実際にそうしたひとも多かった。
そんなわけで、ベネズエラはアメリカでも他の国でもいいので第三者の支援を得ることで国を立て直すしかないだろうと思っていました。しかし、今回の攻撃についてはなかばアメリカによる強奪のようなかたちで起こってしまったので、流石にショックを受けています。ベネズエラ人の知り合いの反応で言うと、すでに外国に移住していたひとは喜びの声を上げています。でも、おそらくいまもベネズエラに残っているであろうひとは連絡がとれなくなってしまっています」
これからベネズエラがどのような方向にむかっていくのかはまだわからない。現地で暮らす方々の生活がこれ以上悪くならないことを祈るばかりだ。
■書誌情報
『混迷の国ベネズエラ潜入記』
著者:北澤豊雄
価格:1,210円(税込)
発売日:2021年3月15日
出版社:産業編集センター