文芸誌不況時代に『GOAT』がランキング浮上 「一誌入魂」の姿勢と豪華作家陣が奏功か
2025年11月第3週のオリコン文芸書ランキングは前週とほぼ変わらないラインナップで、第1位の雨穴『変な地図』(双葉社)を始め当コーナーで紹介した話題作が引き続き売れている模様だ。そんななかで不意にランキングへ浮上してきたのが第10位の『GOAT Summer 2025』(小学館)である。
『GOAT』は2024年に小学館が創刊した文芸誌だ。「かつてない紙の文芸誌を作りたい」という思いの元に、純文学やエンターテインメント小説といったジャンルの線引きはせず、多種多様な書き手やクリエイターを参加させた横断的な雑誌になっている。企画も多彩で、加藤シゲアキを選考委員長とする「GOAT × monogatary.com文学賞」を開催し、その受賞作発表と最終選考会のレポートを掲載している。刊行ペースは年2回。価格も雑誌タイトルに合わせて510円(ゴート)と、破格の安さだ。2024年11月発売の第1号のテーマは「愛」、2025年6月発売の第2号は「悪」と、各号ごとにテーマを設けて特集を組んでおり、2025年7月には姉妹誌に当たる『GOAT meets 01』も発売されている。
発売時点から大きな話題を呼び、2025年7月時点での1号・2号の累計発行部数は11万部に達していた『GOAT』だが、このタイミングで6月発売の2号がランキングに上がってきた。11月18日に小学館は第3号に当たる『GOAT Winter 2026』を12月3日に発売することを発表。さらに11月20日にはBSテレ東の読書情報番組「あの本、読みました?」において『GOAT』の特集が組まれた。俳優の鈴木保奈美が進行役を務める同番組では『GOAT』誌面に登場した作家の野﨑まど、朝井リョウが出演。覆面作家である野﨑は『GOAT』のマスコットキャラクターである「ゴートくん」に扮して番組収録を行った。朝井は『GOAT』編集部のメンバーとともに出演し、同誌の魅力を語っている。
こうしたパブリシティが重なった効果もあって第2号がランクインを果たしたわけだが、伸長の要因はそれだけではないだろう。先ほど書いた通り『GOAT』は「かつてない紙の文芸誌を作りたい」というスローガンを掲げているが、敢えて「紙」という部分に拘り、500頁を超える大分量で手に取った時の重みが感じられるように作られている。(これが510円というのは何度考えても驚きである)さらに言えば『GOAT』の刊行ペースは年2回と、これもまた敢えてネット社会・SNS社会のスピードに逆行し、一球入魂ならぬ一誌入魂の姿勢を見せている。文芸誌のみならず雑誌市場全体が低迷を見せる中で、「敢えて」の構えを崩さず雑誌作りに挑んでいる点が読者の注目を集めているのではないだろうか。
11月28日には更に第3号の企画ラインナップがリリースされてSNS上でも話題を呼んでいる。第3号のテーマは「美」。芦沢央、高瀬隼子、山口未桜などの作家陣に加え、池田エライザ、上白石萌音、藤原さくらなどの著名人を交えた豪華なゲストが誌面を彩る。第3号の発売で更に『GOAT』ブームは盛り上がりそうだ。