『半沢直樹』とは真逆!? 『ザ・ロイヤルファミリー』が挑む、日本的ロマンなき映像美の追求

 TBS系で放送中の日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』は、第33回山本周五郎賞を受賞した早見和真の同名小説を原作に、挫折した税理士が競馬事業に関わる中で再生していく姿を描くドラマである。

 税理士として挫折した栗須栄治(妻夫木聡)は、人材派遣会社ロイヤルヒューマン社の競馬事業部を調査することに。創業者・山王耕造(佐藤浩市)の情熱や元恋人との再会を通じ、競馬と人の思いに触れた栗須は、仕事と人生への新たな答えを見出していくーー。

 ドラマは現在第4話まで放送されており、競馬ファンのみならず、これまで競馬に馴染みのなかった層からも広く支持を集めている。『ザ・ロイヤルファミリー』について、『坂元裕二論 未来に生きる私たちへの手紙』(blueprint)の著者、ライターでドラマ評論家の成馬零一氏は「エンタメとして優れている」と評価し、本作の映像美に注目する。

「『ザ・ロイヤルファミリー』のチーフ演出は、『ラストマイル』(2024年)、『ファーストキス 1ST KISS』(2025年)で監督をされた、塚原あゆ子さんです。塚原さんの作品は、『海に眠るダイヤモンド』(2024年)の端島(軍艦島)の風景のように、ビジュアルで目に訴えかける画面が印象的ですね。『ザ・ロイヤルファミリー』でも、北海道日高地方の風景や、馬の姿が美しい。ドラマであそこまで綺麗に映像化するのは大変だと思います。スケールの大きい映像を、CGと現実の風景をうまく組み合わせて作っています。また、人や動物の「動き」の見せ方にも注目です。『下剋上球児』(2023年)は同じく塚原さん演出の野球ドラマですが、野球の試合をどう見せるか、試行錯誤が感じられましたし、『ザ・ロイヤルファミリー』の競馬シーンにもそれが生かされている印象です」

 北海道の美しい風景や、手に汗握るレースシーンを、実写とCGをうまく組み合わせて映像化している『ザ・ロイヤルファミリー』だが、これまでの日曜劇場の中でどのような作品に位置づけられるのか。成馬氏は次のように説明する。

「近年の日曜劇場は、池井戸潤原作のドラマが全盛だった時期から変化が起きているように思います。もともと日曜劇場は、映像については少し割り切っていた印象でした。たとえば、『半沢直樹』(2013年)は、セリフのおもしろさや役者の演技力で圧倒するような作品です。そこから『陸王』(2017)のマラソンシーンのような、スケールの大きな映像を作りはじめました。2010年代に福澤克雄さんが池井戸潤原作ドラマを作っていた流れから、『VIVANT』(2023年)を経て、“スケールの大きな映像で魅せる”方向に進化してきたわけです。

 福澤さんの場合は極力CGを使わず、生で撮ります。塚原さんは現実の風景や人物とCGをうまく融合させてテンポの良い編集をおこなうことで、映像の強度を高めようと模索しているのだと思います。『ラストマイル』の物流倉庫のシーンを思い出してみても、塚原さんはビジュアルで見せる力は圧倒的です。また、『最愛』(2021年)のように、田舎の風景を撮らせても見事です。塚原さんは、テレビドラマの映像はどこまでやれるのか、というところを、一つ一つ詰めながら作られています。『ザ・ロイヤルファミリー』は、会話よりも映像に見入ってしまいますね。」

 これから視聴者はどういったところに注目すればいいのか。成馬が注目するのは、作品の“描かないこと”に宿る魅力だ。

「『ザ・ロイヤルファミリー』に日本的なロマンは希薄ですね。会社経営や人間関係は描かれますけど、それが巨大で観念的なものとはつながりません。日曜劇場はこれまで、日本的なロマンを背負わされていました。例えば『下町ロケット』(2015年)のように、日本の町工場は世界にも通用するんだ、といったようなものです。そういったイメージが今作にはありません。エンタメとして純粋に楽しむのがいいと思います」

 『ザ・ロイヤルファミリー』は、映像の力を追求する意欲作である。スケールの大きな風景描写を背景に、人が再生していく過程を静かに見つめるその語り口が、日曜劇場シリーズに新しい幅をもたらしている。

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