朝井リョウ、あさのあつこらベテラン勢がオリコン文芸ランキング上位に! 話題の乱歩賞受賞作『殺し屋の営業術』も登場

 背筋『近畿地方のある場所について』(KADOKAWA)や知念実希人『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』(双葉社)など、今夏のオリコン文芸書ランキングはホラー作品が席巻していた印象があった。だが9月に入ると、少し様子が変わってきたようだ。

 9月第1週の週間 文芸書ランキング第1位を獲得したのは朝井リョウの『イン・ザ・メガチャーチ』(日経BP 日本経済新聞出版)。朝井は2025年で作家生活15周年を迎え、同書はそれを記念した作品になっている。いわゆる“推し活”を題材に現代社会の一側面を鋭く抉り取る内容は、アイドルの姿を写し取った『武道館』(文春文庫)の更に向こう側へと広がる風景を描いたものだとも言える。なお、現在発売中の文芸情報誌『ダ・ヴィンチ』(KADOKAWA)では「作家・朝井リョウの15年」と題して特集を組んでいるので、『イン・ザ・メガチャーチ』及びこれまでの朝井作品に興味がある方はそちらも併せて読んでいただきたい。

 第2位はあさのあつこ『NO.6[ナンバーシックス]再会#2』(絵=toi8、講談社)。理想都市「NO.6」の謎を巡る2人の少年の冒険を描くディストピア小説で、2011年に放映されたアニメ作品も話題になった人気シリーズの続編第2弾だ。本編完結から14年ぶりの続編刊行ということで、前作『NO.6再会#1』が今年5月に発売した際にはシリーズファンが歓喜の声を上げていた。

 こうしたベテラン勢の周年記念作品や人気シリーズの続編が上位を占める中で、注目すべきなのが第7位にランクインした野宮有『殺し屋の営業術』(講談社)である。こちらは第71回江戸川乱歩賞受賞作で、営業成績を上げるためには手段を選ばない遣り手の営業マンがふとしたきっかけで殺し屋稼業を営む者たちと出会う、という奇抜な設定が光る犯罪小説だ。第71回乱歩賞の最終選考結果については講談社の『小説現代』2025年7月号に掲載されているので、関心のある方は是非とも目を通していただきたい。第71回の最終候補作は総じてレベルの高い作品が残った様子だが、その中でも取り分け高評価だった『殺し屋の営業術』が受賞する結果となった。

 野宮有はすでにライトノベル分野を中心に著作がある作家だが、テンポの良い展開や個性的でありながら抑制の効いた人物描写など、犯罪小説の書き手として確かな実力を感じさせる。近年では『テスカトリポカ』(角川文庫)で直木賞を受賞した佐藤究など、すでにプロデビューした後に乱歩賞を受賞し、更に作家として活躍の場を広げた例もある。今後の活躍を追っていきたい。

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