【漫画】「100年受け継いでいる家宝だよ」父から渡された壺の中身は……? 『ノラのパン種』

 故郷を離れ、ルームシェアしながらたくましく生きる1人の女性。彼女が父から託されたのは、代々守られてきた“パン種”で……。

 荒れた近未来でパンを通して家族を感じる漫画が、Xにアップされた。本作は漫画家・白乃雪(@ShironoYuki_jp)氏が「コミックDAYS」にて連載中の、漫画『ノラのパン種』の第一話だ。

 今回はグルメシーンを描くうえでのこだわりや、気に入っているシーンについて、白乃雪氏に話を聞いた。(青木圭介)

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『ノラのパン種』(白乃雪)

ーー作品の題材に“パン種”を選んだ理由を教えてください。

白乃雪:私は現在ドイツに住んでいるんですけど、ドイツにはたくさんの種類のパンがあるんです。日本人の方には、ドイツパンとして食べ応えのあるハードなパンを想像する方も多いと思います。ドイツでは、伝統的に作中でも言及している“サワー種”というパン種が使われてきました。サワー種は小麦粉やライ麦粉と水だけで作るモノで、知ったときに小麦粉と水だけで作れるパンがあるのかとびっくりしたのを覚えています。そして滋味深くとても美味しくて、私自身サワー種のパンが好きだったんです。強く記憶に残っていたので、設定を考えているときに候補に浮かびました。

ーーパン種の作成方法をヌカドコと関連付けるシーンが印象的でした。

白乃雪:パン種というモノはあまり身近ではないじゃないですか。それを身近に感じてもらう、わかりやすくイメージしてもらうために、糠床を結びつけました。実際に糠床とパン種には、共通点が多いんです。糠床は米糠に塩や水を加えた漬け床で、糠床ほどではないですがパン種にも受け継いでいくような風習があります。糠床から、日本人でもイメージしやすい内容になっていたら嬉しいです。

ーー生まれ故郷から離れた場所でありながら、ノラが母の味と再会するストーリーも魅力的でした。

白乃雪:ノラが国を転々としてきた設定は、私自身の実体験から生まれています。もうドイツに住んで10年になるんですけど、前回の漫画が終わって次作を考えていた数年前、私は日本人ではあるものの最近の日本に疎くなっているなと気づいたんです。ドイツで外国人として過ごしているのは当たり前ですが、日本に住んでいる日本人とも違うなという感覚がありました。そこから故郷ではない場所で生きるノラが誕生し、流れ者として生きるというテーマと、さまざまな場所で人から人へと受け継がれてきたパン種がうまく繋がったという感じです。

ーーグルメシーンを描くうえでこだわっていることはありますか?

白乃雪:作中に登場する料理は、一度自分で作るようにしています。やっぱり想像ではリアリティに欠ける部分もあると思うんです。作っているときに何が大変だったか、食べたときに何を思ったか、リアルに感じてもらうために必ず一度作ります。

ーー本作のなかで白乃雪氏自身が気に入っているポイントは?

白乃雪:これまで、現代を舞台にした作品しか描いたことがありませんでした。なので近未来を舞台にしたファンタジー世界を描くのが楽しくて、世界観がみえるようなシーンがお気に入りポイントです。

 また、やっぱりグルメ漫画としての側面があるので、パンの質感なんかはできるだけ美味しそうにリアルに描くようにしています。実際にサワー種でパンを作っている方から「すごく美味しそう」と感想をいただいたときは嬉しかったです。パンが登場するシーンも、ご感想のおかげで好きなポイントになりました。

ーー白乃雪氏が漫画を描き始めたきっかけは?

白乃雪:小さい頃から絵を描くことや話を考えることが好きで、初めて少女誌の賞に漫画を応募したのが14歳の頃でした。受賞には至らなかったんですけど、そこですごく丁寧な講評をいただいたんです。そこで「青年誌の方が向いていると思う」というお言葉もいただいて、好きな作品があったこともあり大学生の頃に「アフタヌーン」の賞に応募しました。そこで『クッキングパパ』のうえやまとち先生に評価していただいた記憶が、今でもグルメ漫画を描く根本にあると思います。ちなみにうえやまとち先生リスペクトで、本作のノラお父さんが初登場したシーンのエプロンに「Cooking papi」と書いてあるんです。

ーー最後に、『ノラのパン種』をどのような作品にしていきたいですか?

白乃雪:本作はパンを題材にした話でありながら、異国の地で奮闘する主人公の話でもあります。そこを私の実際の体験もリンクさせながら、盛り上げていけたら嬉しいです。

 また日本人の方が「もし自分が外国人として1人で海外に降り立ったらどうなるだろうか……」と、少し違う視点で自分をみるきっかけに本作がなれればいいなと思っています。あとはもちろん人との繋がりをポジティブに描いて、読んでくださった方の心を明るく温かくできる作品にしたいです。


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https://afternoon.kodansha.co.jp/comics/2025/08/0000417024.html

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