吉岡里帆が熱演! 『九龍ジェネリックロマンス』が放つ“懐かしさの魔法” 不便で不完全であることの魅力とは
※本稿は映画『九龍ジェネリックロマンス』の内容に触れる部分があります。未視聴の方はご注意ください。
累計160万部を突破した眉月じゅんの人気漫画『九龍ジェネリックロマンス』が、8月29日に実写映画として公開された。舞台はかつて香港に実在したスラム街「九龍城砦」をモデルにした妖しくも美しい街・九龍。雑然とした建物、屋台、路地裏の灯り、そして空に浮かぶ幻想的な装置……。便利で効率的な現代では得られない「心地よい不便さ」と、胸に残る懐かしさを映像で体感できる作品に仕上がっている。
【写真】『九龍ジェネリックロマンス』吉岡里帆がノースリーブのチャイナドレスに身を包む
物語の主人公は、九龍の不動産屋で働く鯨井令子(吉岡里帆)。先輩社員の工藤発(水上恒司)に心惹かれる彼女は、工藤に連れられて街を巡る日々を過ごす。しかし二人の距離はなかなか縮まらない。令子は靴屋の楊明(梅澤美波)、アルバイト仲間の小黒(花瀬琴音)ら大切な友人にも囲まれ、九龍での暮らしに満足していた。そんなある日、令子は1枚の写真から工藤にはかつて婚約者がいたことを知る。その婚約者はなんと自分と瓜二つだった――。
“もう一人の鯨井令子”の存在に気づき、自分が過去の記憶を失っていると認識したことで、SFサスペンス要素が一気に加速。失われた過去、もう一人の自分の正体、そして九龍に隠された巨大な謎――映画は原作漫画の幻想的な雰囲気をしっかり映像に落とし込み、観る人に「現実なのにどこか夢を見ているような感覚」を与えてくれる。
そんな作中においてキーワードとなっているのが「懐かしさ」だ。令子や工藤の恋、九龍の街の風景、失われた時間の記憶、すべてがこの感情を強く観客に印象づける仕掛けとなっている。
そしてこのノスタルジックな感情に心が揺さぶられる背景には、現代社会との鮮やかな対比が見えてくる。スマートフォンやAI、タイパ重視の即レス文化に囲まれ、人間関係は希薄になり、心は窮屈だ。飲み会の誘いはパワハラ扱い、雑談は無駄、異性との会話も制約される。効率的で快適なはずの生活が、知らず知らず私たちの心の余白を削ってしまう。そんな時代だからこそ、九龍の街は観る者に独特の温もりと懐かしさを与える。何をやるにも手間がかかる不便さ、効率から外れた時間。しかしそこには人と人の距離の近さ、自由の感覚、心のゆとりがある。その不完全さこそが、九龍の魅力であり、胸に残る“魔法”でもある。
また、「懐かしさ」とは、過去の記憶に想いを馳せる感情であり、作中でも令子が「懐かしい気持ちは、誰かを好きになることと似ている」と語っている。振り返った出来事そのものよりも、その時の気分や今の自分の感情で、美しく思い出したり逆に切なくなったりする。まるで雲をつかむようにふわっとしてるけど、忘れられない。映画ではそんな感情が“九龍”という不思議な街を通して目に見える形で表現されている。
『九龍ジェネリックロマンス』の核心は、「鯨井令子」が何者なのか、という点だ。“懐かしさ”を感じられることは、人である証であり、変えられない過去や叶わぬ恋に思いを巡らせる行為には人間らしい切なさが宿る。だからこそ、クライマックスで吉岡演じる令子が「私」として生きようと必死にもがく姿は、観客に勇気を灯す。原作がまだ完結していないぶん、ファンは映画をひとつの区切りとして楽しめる。そして観終わったあとに、前向きな気持ちと懐かしい余韻を同時に味わうことになるだろう。
■公開情報
『九龍ジェネリックロマンス』
全国公開中
出演:吉岡里帆、水上恒司、栁俊太郎、梅澤美波(乃木坂46)、フィガロ・ツェン、花瀬琴音、諏訪太朗、三島ゆたか、サヘル・ローズ、関口メンディー、山中崇、嶋田久作、竜星涼
原作:「九龍ジェネリックロマンス」眉月じゅん(集英社『週刊ヤングジャンプ』連載)
監督:池田千尋
脚本:和田清人、池田千尋
音楽:小山絵里奈
主題歌:Kroi「HAZE」(IRORI Records/PONY CANYON INC.)
制作プロダクション:ROBOT
制作協力:さざなみ
配給:バンダイナムコフィルムワークス
©眉月じゅん/集英社・映画「九龍ジェネリックロマンス」製作委員会
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