戦後の東京、占領と復興の十年を乱歩賞作家が描破 新野剛志『粒と棘』発売

 新野剛志『粒と棘』(東京創元社)が7月30日に発売された。

 著者の新野剛志は1999年に『八月のマルクス』で第45回江戸川乱歩賞を受賞してデビュー、空港を舞台に青年の活躍と成長を描いた連作『あぽやん』では第139回直木三十五賞の候補にも選ばれた。この度の新刊『粒と棘』は、二十五年以上の著者のキャリアのなかでは2冊目、20年ぶりとなる独立短編集となっている。

 本書『粒と棘』に収められる短編小説は、戦後を生きた六人の人生、その一時期を切り取った1冊。独立短編集でありながら、いくつかの人物と場所は各編をまたいで登場する。

 ある男は、上海から空輸されたダイヤモンドの行方をめぐって追手から逃げる――飛行士として空を駆けた日々に思いを馳せながら。

 ある少年は、みずからと似た境遇の浮浪児を集めて地方の農家に身売りする――それが彼らにとっての幸福に違いないと信じながら。

 ある女は、紙芝居の出版社で働く傍ら許婚とともに義兄の帰りを待ち続ける――父のいなくなったこの国で自由とは何か悩みながら。

 1945年、第二次世界大戦の終結とともに被占領国となった日本の、占領と復興の十年を駆け抜けた名もなき人々の生を描く作品だ。

■書誌情報
『粒と棘』
著者:新野剛志
価格:2,310円(税込)
発売日:2025年7月30日
出版社:東京創元社

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