『サマーウォーズ』における「本棚」の意味とは? 細田守作品に共通する「書」と「キャラ」の関係

 本日8月1日(金)21時から、「金曜ロードショー」(日本テレビ系列)にて、細田守監督の『サマーウォーズ』が放送される。

 『サマーウォーズ』は、2009年に公開された、“ボーイ・ミーツ・ガール”の青春物語と、電脳空間での派手なバトルアクションを組み合わせた、長編アニメーション映画の傑作である(マッドハウス制作)。自然豊かな長野県上田市にある旧家を舞台に、89歳の“栄(さかえ)おばあちゃん”率いる大家族と、たまたまその家を訪れていた数学が得意な高校生・小磯健二が、「OZ」というネット上の仮想空間内で起きた、現実世界を揺るがす脅威に立ち向かう姿が描かれる。

「夏の映画」の定番

 もともと『劇場版デジモンアドベンチャー』などの監督として、アニメファンの間で高く評価されていた「細田守」の名を、さらに広く世に知らしめることになったのは、おそらくは2006年公開の『時をかける少女』(原作・筒井康隆)のスマッシュヒットだったろう。国内の劇場わずか6館でスタートしたという同作は、やがて口コミで話題となり、上映館の数を拡大、ロングランの作品となっていった。

 続く『サマーウォーズ』は、ある意味ではその勢いを借りて制作された映画ともいえ、細田はこの作品で初の原作も務めている(結果的には興行収入16.5億円の大ヒット作となり、「夏の映画」の定番に)。

「本棚」の描写がキャラを立てる

 ところで、「細田守作品」と聞いて、あなたはまず何を思い浮かべるだろうか? たぶん、“夏”と“主人公たちの成長”を象徴する、青空に立ち上る「入道雲」の描写だろう。あるいは、「本」や「本棚」の描写だろうか。

 実際、のちに制作された『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)や、『バケモノの子』(2015年)といった細田作品では、「本」が、主人公たちを導く重要なアイテムとして描かれている。『サマーウォーズ』でも、その2作と比べ、控えめな表現ではあるが、「本棚」が、印象に残る形で作中に登場する。

 まずは、一家の大黒柱――栄の部屋に、小振りな本棚が3つほど確認できる。はっきりと書名が読み取れるところでは、『日本名僧論集第7巻 親鸞』や『折口信夫全集』といった重厚な書物が整然と並べられており、それらは彼女の高い教養を暗に物語っているといえよう(栄は元教師という設定)。

 また、さらに注目すべきは、屋敷の物置部屋(納戸)に収納されている、厖大な古書の数々だろう。この部屋は現在、主要キャラのひとり、池沢佳主馬(かずま)がPCでOZの格闘ゲームに興じるための場所として使用されているのだが、壁を覆い尽くしている時代もジャンルもバラバラな古書の数々は、この家が代々、本を愛する(本を捨てない)多くの人々の暮らしの場になってきたことの証にもなっているのである。

 蔵書の中に前作の原作(『時をかける少女』)があるのは、監督の遊び心によるものだろうが、その他にも、『南総里見八犬伝』、『飛ぶ教室』、『ふたりのロッテ』、『赤いろうそくと人魚』、『伊豆の踊り子』、『セロひきのゴーシュ』、『はてしない物語』、『闇の左手』、『愛と幻想のファシズム』、『センセイの鞄』などの書名が確認できる(現実には存在しない装丁の本もある)。あとは、『中原中也 詩集』、『古事記』、文芸誌「群像」、各種図鑑や『ファーブル昆虫記』、コミック『ときめきトゥナイト』、食の本、花札の本などなど――ここには、創作物から実用書まで、あらゆるジャンルの本があるようだ(花札の本は、物語の終盤の伏線になっている?)。

 いずれにしても、こういう形での「キャラの立て方」があるのだということを、私は本作から教わった。少なくとも、『サマーウォーズ』は「本を大切にしている(してきた)一族の物語」であると聞けば、「リアルサウンド ブック」の読者であるあなたは――きっとあなたも本が好きな人だろうから――観ないわけにはいかないのではないだろうか。

[参考]:「BRUTUS」(マガジンハウス)2010年1月15日号・特集「本が人を作る。」

■放送情報
『サマーウォーズ』
日本テレビ系『金曜ロードショー』にて、8月1日(金)21:00~22:54放送
声の出演:神木隆之介、宮内ひとみ(旧芸名:桜庭ななみ)、斎藤歩、谷村美月、富司純子
監督・原作:細田守
脚本:奥寺佐渡子
キャラクターデザイン:貞本義行
作画監督:青山浩行
美術監督:武重洋二
CGディレクター:堀部 亮
色彩設計:鎌田千賀子
©2009 SW F.P.

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