『タコピーの原罪』衝撃シーンはアニメでどう再現された?  原作の“行間”を埋める演出

120%の再現度で描き出された衝撃シーン

 さらに極めつけは、第1話の中盤における“惨劇”の描き方だ。タコピーはしずかにハッピー道具「仲直りリボン」を渡した後、心配になって様子を見に来るのだが、そこで命を失った彼女の身体が家の梁からぶらさがっているのを見てしまう。

 原作では細部まで描き込まれた迫力のある1枚絵で表現されていた場面だが、アニメではさまざまな演出を駆使することで、その衝撃を再現している。

 まずはタコピーの目線から、「仲直りリボン」で吊るされたしずかの身体がゆらゆらと揺れているところを表現。そしてその後、すでに絶命したしずかの目線にカメラが同一化するような構図で、部屋を見下ろすカットが挟まれていた。しかも一連の場面では、身体の重みによって梁がきしむような音を立てており、視聴者の不安感を煽る効果を生み出している……。

 そもそもアニメは、止め絵の迫力ではマンガに勝つことが難しいメディアだ。アニメスタッフはそれを理解した上で、音と動きを活かした演出により、原作の衝撃シーンを再現しようとしたのではないだろうか。

 なお、このシーンには続きがある。リボンがゆるんでしずかの身体が床に落ちてきた後、タコピーは恐る恐る近づいてきて、彼女の指にゆっくりと触手を絡ませる。原作でもこの描写は存在するが、アニメではより丁寧な描写になっていた。これによってタコピーがキッズアニメのような世界観を離れ、“死”という残酷な現実に向き合っていく過程が表現されている。

 ほかにも、まりなに暴力を受けたことを思い出したタコピーが一歩も動けなくなってしまう場面や、まりなの母親が自分の結婚指輪をガリガリとひっかく場面など、原作では1、2コマしかなかった描写を膨らませているのが目に付く第1話だった。

 さらに、声優陣の演技も原作再現度の高さに貢献している。とくに注目すべきは、しずかの声を担当する上田麗奈の演技だ。上田は『アオのハコ』の鹿野千夏役や『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』のギギ・アンダルシア役などで知られる声優だが、今回は感情の起伏が一切ない、淡々としたしゃべり方によって、現実のすべてを諦めたようなしずかの内面を表現している。思わずぞっとしてしまうほどのリアリティだ。

 制作陣がその気になれば、少々内容をマイルドにして地上波放送を行うという選択肢もあったはず。しかし実際にはショッキングな内容を調整するどころか、むしろ強調するような挑戦的な作品に仕上がっている。前代未聞のアニメプロジェクトとして、今後の配信も見守っていきたい。

 

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