伝説の漫画雑誌「ガロ」で連載された問題作ーー大越孝太郎『天国に結ぶ戀』が描く“猟奇”の真意
差別をなくすことはできないが、人の情で忘れることはできる
本作では、徹底的に「差別」する側が非難されている。だが、この差別というものには際限がない。なぜなら、差別を受けた者は、さらに自分よりも弱い――「下」の存在を見つけて差別しようとするものだからだ。そして、その負の連鎖は、さらに、下へ、下へ、と永遠に続いていく……。だからこの世界から差別がなくなることはない。
前述のハクダミは、虹彦たちから自由を奪ういわば“悪役”だが、こんなことをいってもいる。「差別ってヤツは、無くすことは出来ねェが、忘れちまうことは出来る。人の情でもってな」
かつて自らも差別される側の存在だったハクダミにとっては、多くの人々から愛され、逆境の中でも強く生きていこうとする虹彦とののここそが、希望の光なのだ。だから彼は、本来は悪役でありながら、最終的にはふたりにとってのメンターにもなりえたのだろう。
物語のクライマックス――そんなハクダミの想いを受け止めた虹彦たちの“決断”については、ぜひその目で確認されたい。
なお、本作には、単行本には収録されていない「第二部」が存在する。残念ながら現時点では、第1話のみが描かれ(「ガロ」2002年7月号掲載)、第2話以降は中断している状態だが、今回の新装版の刊行をきっかけとして、何か新たな動きがあることに期待したい。