読むだけが本の楽しみ方じゃないーー人が集う場所、観光地としての書店と図書館
読むのが苦手な本好きキャラクターが読者の共感を集めるマンガがある。児島青『本なら売るほど』(KADOKAWA)だ。脱サラした青年が営む古書店には、さまざまな本好きが集まる。本のある空間、本にまつわるやりとりに魅せられる。
第4話には読めないタイプの本好き、ジョージさんが登場する。壁いっぱいの本棚を手作りし、そこにコレクションを並べる。大量の蔵書のほとんどを読んだことがないが、きれいに並んだ背表紙を見るとワクワクしてしまう。そんなジョージさんの姿に、読者も「それ、わかる」と頷いてしまう。
本は、読んでこそ。しかし本の魅力は、読むことだけでは測れない。紙の質感、匂い、並ぶ背表紙、装丁の手触り、そしてそこに集う人々――そのすべてがコンテンツで、本を愛する理由になり得る。
本好きが集まる場所は、日本国内さまざまな場所にある。たとえば、京都市左京区の書店「恵文社 一乗寺店」。一歩足を踏み入れると、本だけでなく雑貨、文具、アート作品が並び、まるでギャラリーのような空間が広がる。
東京・新宿と大阪・心斎橋に店舗のある「BOOK AND BED」は、泊まれる本屋。寝る直前まで気ままにページをめくり、本に囲まれて眠ることができる。本そのものよりも、本に包まれた時間に価値を見出す人も増えている。
また、全国的に書店が減少する一方で、図書館は増加傾向にあるという。2022年に新築された石川県立図書館は、巨大な吹き抜けの空間に、何重にも円を描くように本棚が配置されており、圧巻の景観だ。そして、こういった書店や図書館は、貴重な観光資源でもある。
観光地としての書店、図書館は、何も日本国内だけではない。例えばメキシコのバスコンセロス図書館は、書架が宙に浮かんでいるようなデザインが特徴。アルゼンチン、ブエノスアイレスのエル・アテネオという書店はかつての劇場を使った斬新な内装で、観光客に大人気だ。
読むのが苦手な本好き、というのは決して矛盾した存在ではない。読む速度が遅くてもいいし、途中でやめたってかまわない。むしろ本との関わり方は、人の数だけあっていい。それが、これからの読書のあり方だ。