違法行為、不幸な事故、特殊詐欺、差別問題……逢坂冬馬が現代の問題を描く『ブレイクショットの軌跡』
第一章を読み始めて、これは次々と変わる「ブレイクショット」の持ち主の物語を連作風に描いた、いわゆる〝ロンド形式〟の作品だと思った。それは間違いではない。ただし作者の企みは深く、エピローグで驚くことになる。また、霧山家と後藤家の他にも、章の主人公になる人がいるが、それもどこかで彼らの人生とリンクしている。繋がっているのは「ブレイクショット」だけではないのだ。
会社の違法行為、不幸な事故、特殊詐欺、差別問題、LGBTQ、ネットの炎上……。物語が進むにつれ、現代の日本が抱える問題が露わになっていく。社会や個人の良識や倫理観は薄まり、諸々のセーフティーネットも機能しなくなってきた。まさに日本の底が抜けてしまったのだ。ならば底に落ちてしまった人は、人生という名のゲームから脱線していくしかないのだろうか。
いや、そんなことはない。今までの自分を見つめ直し、足掻き続けることで、落ちた場所から光のある方向へ歩いていけるのではないか。本書は、面白い物語であると同時に、今の日本を生きるためのサバイバル・ブックになっているのである。
なお物語の随所に、エルヴェのパートが挿入されている。こちらは冒険小説のようで、読んでいて血が滾る。さらに、底が抜けて脱線した世界が当たり前になっている中央アフリカ共和国が、日本と繋がっていることも、しだいに理解できるようになっているのだ。
いや、日本と中央アフリカ共和国だけではない。世界中の国も人も、どこかで繋がっている。良くも悪くも、そのような時代に私たちはいるのだ。『同志少女よ、敵を撃て』の独ソ戦の真っ最中のソ連、『歌われなかった海賊へ』のナチ体制下のドイツと状況は違うが、逢坂冬馬の活写した現代は、やはり極めてハードである。そして前二作と同様、ハードな世界の中で、なお前に進もうとする人間の力を表現しているのである。