【漫画試し読み】もしも非戦闘員キャラが超絶的な力を秘めていたら? 漫画『雑用付与術師が自分の最強に気付くまで』に注目!
ヴィムがかけるのは、対象の能力を高める付与術にすぎない。ただしそこで、筋肉や骨格に合わせて最大効率を発揮できるように調整してかけているため、かけられた相手は普段からは考えられない超絶的な力を出せるようになる。
あり得ない? そう、あり得ないと思われるほどのテクニックだからこそ、クロノスはヴィムにかけられていた付与術の恩恵を感じ取れなかった。スムースに体が動いてモンスターと戦えるのは単に自分の能力が優れているからだと思っていた。そのことを主張すれば、すごい付与術師とクロノスが認めてくれたかというと、自分を過信している彼には絶対に無理だっただろう。だから【竜の翼】はヴィムを追い出してしまう。
【夜蜻蛉】は違った。カミラという勇猛にして聡明な団長がいて、理解力の高い幹部たちがいて、ヴィムがどれだけのことをしたのかをしっかりと感じ取り、有能ぶりを驚きながらも受け入れる。実力が認められ、居場所を得られる心地よさを味わえる展開だが、そこでヴィムの人生が順風満帆とならないところも、この『雑用付与術師が自分の最強に気付くまで』の面白いところだ。
カミラを筆頭に周囲がどれだけ褒めそやしても、優しいだけだと思い込んで自分の凄さを受け入れない。ここまで自分を卑下する相手を見ると、クロノスのようにイラッとしてしまいそう。そんな性格のヴィムを見捨てず自分のパーティーに誘ったハイデマリーが、どれだけの恩義をどのようにしてヴィムに感じるようになったのかが気になってくる。
第九十七階層の階層主を倒した戦いにも増して過酷で絶望的な状況に陥ったパーティーを、これもほとんどヴィムひとりの力で救ったような展開を経ると、さすがに自己評価も改めざるを得なくなる。ようやく「自分の最強に気付く」ことになった訳だが、そこからさらに苛烈な物語が始まって展開から目が離せなくなる。
ヴィムが階層主を付与術師でありながら倒せた理由が、やがてヴィム自身を苛むようになっていく。少しだけ明かすなら、自分に付与術をかけ過ぎたことで起こるオーバーフロー、あるいはドーピングのやり過ぎによる後遺症とも言えそうな現象が、ヴィムを幸福の中に留め置かず、第7巻で繰り広げられる孤独な戦いへと向かわせる。
仲間を得て、居場所ができて、強さも認めてもらえてと言うことなしの境遇でも満足できないのはなぜなのか。オーバーフローや後遺症で説明できない何かがあるのか。ずっと以前から、ヴィムに謎の声が聞こえていたことも気になるところ。そうした声に導かれ、ヴィムがどこへ向かおうとしているのかも含め、Webサイト「がうがうモンスター+」で進む連載の行き先が今は気になって仕方が無い。
■作品情報
『雑用付与術師が自分の最強に気付くまで』
漫画:アラカワシン
原作:戸倉儚
キャラクター原案:白井鋭利
レーベル:モンスターコミックス
出版社:双葉社