〈AIの生みの親〉ノーベル物理学賞受賞のジェフリー・ヒントン、なぜ「AI」に警鐘を鳴らすようになったのか

 AI研究の第一人者として知られ、Google社の副社長も務めたトロント大名誉教授、ジェフリー・ヒントン氏が10月8日、ノーベル物理学賞を受賞した。授与理由は「人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にする基礎的な発明」。深層学習(ディープラーニング)の中核となる技術を開発し、AIの飛躍的な進化をもたらしたことによる受賞だ。

 興味深いのは、“AIの生みの親/AI界のゴッドファーザー”と呼ばれるヒントン氏が2023年以降、AIの進化に懐疑的な立場を明確にして「脅威論」を訴え続けていることだ。23年はヒントン氏がGoogle社を退いた年だが、同年3月9日付の日本経済新聞記事「人知超すAIは人を操る 『ゴッドファーザー』が語る脅威」によれば、ヒントン氏は退社の理由を「自分が信じることを自由に発信したかったため」としており、AIへの懸念を訴えるための決断だったという。

 “AIの生みの親”とも称される人物が、いま誰より刺激的な言葉でその脅威に警鐘を鳴らしているのはなぜか。「NHK NEWS WEB」が2023年5月15日に公開した記事「AI界の“ゴッドファーザー”ヒントン博士の警告」では、短期的な脅威としてすでに問題化している「フェイク画像/フェイク動画」の問題を取り上げつつ、長期的な脅威として「(AIが)人間を支配しようとしてくる可能性」に言及。急速に進化するAIの「5年先」すら予測することが困難だという前提で、「核戦争と同じく人類が直面する最大の脅威の1つ」「人類の終わりを意味する可能性がある」と語っている。

 また前出の日経新聞の記事では、具体的な脅威として「今後10年以内に自律的に人間を殺すロボット兵器が登場するとみている 」との見解を示す。ヒントン氏は、AIが加速度的に進化していくなかで、SF作品の中で繰り返し描かれてきたような人類終焉のシナリオが現実になる可能性があり、世界中のリーダーがこのリスクに向き合うべきだという。

 もっとも、ヒントン氏はAIの開発を止めるべきだとは主張しておらず、生成AIを活用したビジネスの多様さを考えればそれは非現実的であり、AIが制御不能にならないよう、政府が企業に対して十分な人材や資金を投じるよう促すべきだというスタンスだ。AIの脅威については研究者のなかでも様々な見解があり、十分に制御可能だとする考え方もある。しかし、他でもないノーベル科学賞を受賞した“AIの生みの親”の言葉には傾聴の価値があり、AIの恩恵を無邪気に享受するだけでなく、最悪のシナリオを現実的に想定したほうがいいのかもしれない。

 いずれにしても、今回のノーベル賞受賞により、ヒントン氏にはさらに注目が集まるだろう。その半生を描いたノンフィクション(CCCメディアハウス『GENIUS MAKERS ジーニアスメーカーズ Google、Facebook、そして世界にAIをもたらした信念と情熱の物』)が翻訳・出版されている。彼の会社をGoogle、Microsoft、Baiduが奪い合うオークションから始まる、AI開発の裏にあるドラマが綴られているので、気になる人はチェックしてみよう。

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