「もうええでしょう」は危険信号! 『地面師たち』にみる危ない取引のシグナル

 現在Netflixにて配信中のドラマ『地面師たち』。土地の所有者になりすまし、架空の土地取引を行うことで多額の金を騙し取る、"地面師"と呼ばれる劇場型詐欺を題材にしたドラマである。

 個性的なキャラクターが数多く登場するこのドラマの中で一際印象的なのが、ピエール瀧演じる後藤だ。後藤は元司法書士というキャリアを持つ地面師。他にも不動産関係の資格を持っており、法律に関する知識を生かして地面師チームをサポートする。さらに土地を売る側の行政書士として売却相手との会合現場にも参加し、高圧的な口調で取引をリード。うさんくさい関西弁で場を仕切る弁舌も持ち味の、一度見たら忘れられないキャラクターだ。

 この後藤の振る舞いとセリフ、特に劇中で連発された「もうええでしょう!」という決めゼリフからは、詐欺事件特有の注意点が滲んでいると、現役弁護士である小杉俊介氏は語る。実際に不動産取引の現場や土地にまつわる怪しげな人々も目にしてきた小杉氏が感じた、後藤のセリフから読み取るべき教訓とは。

相手がこちらを急がせてきたら、それだけで絶対に警戒した方がいい

──ピエール瀧が演じていた後藤ですが、強烈なキャラクターでしたね。

 そうですね。後藤のふるまいや、特にあの「もうええでしょう!」という決めセリフからは、詐欺事件全般の「これが出たら怪しいと思え」という注意喚起の意識が感じられました。

──と、言いますと。

 判断を急がせてくる相手には気を付けろ、ということです。これは他の詐欺でも共通しています。もう、相手がこちらを急がせてきたら、それだけで絶対に警戒した方がいい。「あと〇〇時間でこのチャンスが終わっちゃいますよ」とか「あなたの他にも買いたいと言っている人がいるんですよ」とか、「今日中に振り込まないと」とか、とにかく急かしてくる。『地面師たち』の劇中では、騙そうとしている相手がこちらの身分などを細かくチェックしようとしてきたときに、後藤の「もうええでしょう!」が出るわけですが、これは詐欺師が相手を急かそうとすることを分かりやすく表現しています。

──後藤の関西弁もあってインパクトの強いセリフですが、「相手を急かす」というのは実際に詐欺師がよくとる行動でもあるわけですね。

 後藤の仕事は司法書士です。きちんと法的に問題なく手続きを踏んでいるかチェックすべき立場です。だから、『地面師たち』の第一話に出てきたマイクホームズ側の司法書士は、ちゃんと自分の仕事をしている。それが司法書士の仕事のはずなのに、後藤は逆のことをしている。ただ、実際の詐欺事件で言うと、急かすことはあっても、後藤のようにあからさまに大声で急かすような人間はあまり出てこないかもしれません。

──そうなんですか。

 声を荒げてしまったら、警戒されるに決まってますから。逆に言えば、それを踏まえてあえてドラマに後藤のような人物を登場させたのは、詐欺師の手口や警戒すべきポイントを視聴者にもわかりやすく表現する意図からだと思います。

──後藤が怒鳴るのはあくまで演出だけど、急かしてくるところはリアルということですね。

 注意喚起したいのが、詐欺というのは「詐欺に引っかかる人と引っかからない人がいて、ちゃんと気をつけていれば引っかからない」というものではないということです。「気をつけていれば大丈夫」という認識は、自分の知っている限りでは誤解です。実際の詐欺は、たとえばドラマの中の青柳のように「土地の獲得を焦ったから引っかかった」というような、わかりやすい理由だけで説明できるものではないんです。

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