ポケベルがまさかの爆弾に……クリスマスツリー、たばこ缶、石炭、身の回りにある偽装爆弾の恐ろしさ

戦地でハッキング対策のために重用されるポケベル

 9月17日、レバノン南部や首都ベイルート近郊にて、イスラム教シーア派組織ヒズボラのメンバーらが連絡手段として用いているポケベル型の携帯通信機器が相次いで爆発。少なくとも9人が死亡し、およそ2800人が負傷する事件が発生した。

 長年イスラエルと緊張関係にあるヒズボラは、傍受やハッキングといった攻撃を避けるため、携帯電話やスマートフォンでの通信を行わず、昔ながらのポケベルによって相互の連絡を取り合っていたとされる。ヒズボラの連絡手段であるポケベルをピンポイントで狙ったこの攻撃は、イスラエルによるものと推測されている。

 爆発したポケベルは台湾企業のゴールド・アポロによって製造されたものとされているが、ロイター通信によればゴールド・アポロはライセンスを供与しただけで製造には関与しておらず、実際にはブダペストに拠点を置くBACコンサルティングが製造したと発表している。製造・流通のどこかでイスラエル側が爆発物と起爆装置を仕込み、偽装爆弾としてヒズボラ内部に流通させた可能性がある。ポケベルを製造するメーカーがある程度限られている昨今なら、ヒズボラ側が特定メーカーの製品を大量購入するルートは把握しやすいため、偽装爆弾を仕込むことは可能だったのではないだろうか。

 偽装爆弾は、歴史的にも様々な場面で使われてきた。古い例では、第二次世界大戦中に米英の諜報機関が破壊工作に使用したとされる「石炭爆弾」がある。これは少し火器に触れただけで爆発するニトロセルロースを使った爆弾で、塊にしたニトロセルロースの表面を石炭に似せて偽装したものである。

 大戦当時は石炭を燃料として稼働する蒸気機関車や発電所などが数多く存在しており、石炭爆弾はこういった後方の重要施設・インフラを破壊するために使われた。使い方は至極単純。燃料として使われる他の石炭に紛れ込ませておくだけである。蒸気機関車の火室や発電所のボイラーに放り込まれれば、火の気に軽く触れただけで大爆発を起こし、停電や輸送網の麻痺を引き起こすことができるのだ。

 大戦中にはこの石炭爆弾の製造キットも配布され、戦線後方でのドイツ軍に対するサボタージュの一助となった。ただ、石炭を使った重要施設の数が減るとともに、有効な攻撃手段ではなくなったとされる。テロ爆弾の恐るべき系譜については下記にも著されている。

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