『ワタサバ』原作者の最新作『縁切りエマ』にも漂う嫌な予感 “網浜属性”を持つ最初のヒロインはどうなる?

 主人公“網浜さん”の強烈なキャラクターが大きなバズを起こし、ドラマ化もされた漫画『ワタシってサバサバしてるから』(ワタサバ)。その原作者・とらふぐ氏による新作で、『シンデレラコレクション』などのヒット作で知られる今井康絵氏が作画を手がける『縁切りエマ』が、9月12日発売の週刊誌「女性セブン」で連載を開始した。

 『縁切りエマ』は、「どんな悪縁も断ち切る絶縁神社」を舞台に、 現代を生きる老若男女が抱えるあらゆる闇がスリリングに描かれる“大人のダークファンタジー”と説明されている。ファンタジー作品だとすると、『ワタサバ』に感じられた、言語化しづらいリアルな“嫌な感じ”は本作では描かれないのか……という印象も受けるが、実際には第一話から『ワタサバ』的魅力を豊富に感じられる作品だった。

  第一話のタイトルは、「エイジレスな私に 桜井美咲の場合1」。本作はオムニバス形式で描かれるようで、おそらく今後「絶縁神社」に出会うだろう「桜井美咲」という人物が、当面の主人公になりそうだ。そしてこの美咲が、すでに実社会で思い当たる節のある“嫌な感じ”を漂わせている。

 『ワタサバ』の主人公・網浜奈美は自己肯定感が異常に高く、「周囲から憧れられている」という大きな勘違いをベースに自分勝手な行動をとっており、エンタテインメントとしての誇張を多分に含みながら、「こういう人、いるいる!」という、野次馬的な関心/共感を集めるキャラクターだった。

 一方、美咲はインパクトのあるルックスの網浜と違い、SNSで美人ともてはやされる企業広報だ。40歳を超えてから、アプリで加工したSNSの写真とのギャップに悩んでおり、ここまでだったら網浜とは違って普通に応援したくなるキャラクターでもある。しかし、35歳のイケメン社長が自分に気があると思い込み、接待の同伴から外され、代わりに新入社員の女性を連れていくと聞けば「若さに胡座かいて自分磨きをしてない子」「当社のイメージダウンよ!」と断じて歯噛みするなど、“網浜属性”の人間であることがわかってくる。

 美咲という人物の外面(そとづら)の良さと内面の嫌な感じが上手く表現されているのは、さすが少女漫画の分野で活躍してきた今井氏というところだろう。同じく社会の闇を描き、各章にヒロインを配置した大ヒット作『明日、私は誰かのカノジョ』のように、中心人物を掘り下げ、その関係性まで描いていくのか、あるいは『笑ゥせぇるすまん』のようにそれぞれの人物が取り返しのつかないことになって消えていくのかはまだわからないが、いずれにしてもある種の共感可能な性質を持ったキャラクターが次々と描かれていくくのが楽しみだ。

 ということで、『ワタサバ』好きの読者にも試してほしい作品ではあるが、大きな違いは今作にはすでに「悲壮感」があることだ。『ワタサバ』は主人公の網浜が類稀な鈍感力と過剰なポジティブさを兼ね備えているため、ほとんどのことは結果的にノーダメージという解釈に落ち着き、ある意味で「見習いたい」と思わされる部分もある。しかし、美咲は今後、痛い目に遭いそうな気がしてならない。

 「ダークファンタジー」という謳い文句や、近年の漫画業界で「復讐(リベンジ)」や「因果応報」がひとつのトレンドになっていることを考えても、彼女がこれから何をやらかし、最終的にどんな結末を迎えるのか、恐ろしくなってくる。『ワタサバ』が好きでスリルを味わいたい人は、第一話からチェックしてみてはいかがだろう。

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