浅田弘幸が原画展で見せる、伝説的バスケ漫画の新たな世界ーー「I’ll-WILD DIAMOND-」レポート
現在、渋谷のギャラリーDéesse space caiman shibuyaにて、漫画家・浅田弘幸の原画展「I’ll-WILD DIAMOND-」が開催中だ(第1期・第2期に分けて9月8日まで開催予定。詳細はこちらからご確認いただきたい)。
ちなみに今回の原画展は、浅田の代表作の1つ『I’ll-アイル-』の「完全版」(小学館クリエイティブ)全7巻完結を記念したもの。
浅田弘幸の『I’ll-アイル-』は、1995年から2004年まで「月刊少年ジャンプ」(集英社)にて連載された青春スポーツ漫画の傑作である。主人公は、立花茜と柊仁成。ともにバスケットボールへの熱い想いを抱きながらも、それぞれある理由から、高校進学後は違う道を歩もうとしていた少年たちだ。
しかし、偶然同じ高校(国府津高校)に進学したふたりは、そこで運命的な再会を果たし、彼らが本来いるべき場所――すなわち、バスケットボールのコートに戻ってくる。そして、そんなふたりとどこか似た、心に傷を負った少年たち――東本彰彦、山崎義生、金本浩二らも加わり、「国府津高校バスケットボール部」というかけがえのない“居場所”が形づくられていくのだった。
主人公の視点が変わることで、新しい世界が見えてくる
なお、冒頭で述べた現在開催中の原画展第1期(8月18日まで)では、“ふたりの主人公”のうち、柊仁成に焦点が当てられた展示内容になっている。
柊仁成は、バスケットボール界のエリートである父と兄に反発し、一度はバスケをやめようと思った少年だ。だが、立花茜という“相棒”との出会いが、あるいは、国府津高校バスケットボール部というかけがえのない“居場所”の存在が、彼をバスケの世界につなぎ止めることになる(物語の中盤、そんな彼が自分自身を問い直すために、一時的に別のチームに所属し、国府津高校バスケ部と戦うくだりは圧巻だ)。
前述のように、『I’ll-アイル-』という物語では、この柊仁成と立花茜はほぼ同格の主人公として描かれているのだが、実質的な主人公をあえて1人だけ選ぶとすれば、それは立花茜ということになるだろう。つまり、読者の多くは、おのずと立花の視点で物語を追うようになっているはずなのだ。
だが、今回の原画展のように、別のキャラクターの視点で物語の断片を組み直すことで、新しい世界が見えてくることもある。そう、同じ高校バスケの世界を描いた映画『THE FIRST SLAM DUNK』(井上雄彦監督)が、原作の主人公(桜木花道)とは異なるキャラクター(宮城リョータ)を主役に据えることで、これまで誰も知らなかった“初めての『SLAM DUNK』”を見せてくれたように――。