『オルクセン王国史』『TS衛生兵の戦場日記』『幼女戦記』……戦争の苛烈さを描くライトノベル

『TS衛生兵さんの戦場日記』

 戦争が始まってしまえば、あとは勝つか負けるか、死ぬか生きるかの戦いがいつ果てるともなく続く。そうした戦場に生きる兵士たちの日々を、衛生兵の視点からつづった物語が、まさきたま『TS衛生兵さんの戦場日記』シリーズだ。シューティングゲームのプロゲーマーだった男性が、異世界にノエルという名の少女として転生し、そこで回復魔法の適性を見出され、徴兵されて衛生兵として戦場に送り込まれる。

 傍らに居た仲間が次の瞬間に死んでいる理不尽。敵陣に突撃を命じる上官の無謀。水木しげるの『総員玉砕せよ!』なり映画『プラトーン』に描かれた戦場の苛烈さがこれでもかと繰り出され、戦争なんて絶対に行きたくないと思わせる。それでも行かざるを得ない事情があるのなら、そこでどう振る舞うべきなのかが、ノエルの日常から感じ取れる。

 衛生兵として治癒の力を持つノエルが傷ついた仲間を救おうとして魔法を使ったことを、上官の小隊長は激怒して殴る。制限のある魔法を使う相手は自分だけ。そう言う上官は命が惜しい訳ではなく、戦争を終わらせることができる自分は絶対に死んではいけないという確信を抱いている。無茶苦茶だか全く理がない訳ではない。

 傷ついた仲間を助けようとして、そこでノエルが死んでいたら物語自体が終わっていた。自分だけでも生き延びることがどのような意味があるのか。当時分からなかったその理由が、第3巻で衛生小隊長となったノエルにできた部下のとった同じような振る舞の結果から見えてくる。優しいだけでは生きていけない戦場の残酷さを感じ取ることで、戦争というもに対するスタンスを考えよう。

 敵のサバト連邦が繰り出す作戦や、対抗するノエルたちオースティン帝国の戦い方からは、軍略ものとしての面白さも味わえる。ノエルは生き延びることができるのか。ゲーマーだった前世の経験が活かされる時が来るのか。そうしたことも含め、戦いの帰結を見極めたくなるシリーズだ。

『幼女戦記(1)』

 戦場で少女といえば、カルロ・ゼンによる『幼女戦記』シリーズも巻を重ねて戦場の泥沼化が進んでいる。帝国で魔導師たちの軍団を率いるターニャには、日本の会社員だった時に学んだ歴史や軍事の知識があって、少女として転生した際に身に付けた強大な魔法の力と合わせることで、周辺諸国を相手にした戦場でめざましい活躍を見せている。

 そうしたターニャの戦いぶりがシリーズの読みどころと言えるが、大局的には帝国はジリ貧で、このままでは滅亡は必至。そのことを分かっているターニャは、自分を気に入ってくれている中枢の将軍を動かし、滅亡には至らないような道筋を作る。戦闘でのアクションがあり、戦場での駆け引きがあり、戦局での策略もあってとそれぞれのレイヤーから戦争の大変さを感じさせてくれるシリーズだ。



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