【漫画】事故で意識が戻らない我が子、見舞いに来ない夫ーー母親の葛藤描く『mothers』が胸に突き刺さる

――本作は先日発売となった短編集『mothers』のなかの1作ですね。

草原うみ(以下、草原):15年ほどかけて描いた短編を収めた作品集です。2017年頃に出した同人誌を読んだアメリカの会社が昨年、英語版を出版してくれたんですよ。その日本版が先日発売されました。

 「母」をテーマにした漫画を集めたということではなく、『mothers』が一番最近に描いた作品でもあって、わかりやすいということで表題作になったんです。

――『mothers』の着想についても教えてください。

草原:もともとテーマをもとに考えるより、シーンや1枚絵のイメージから着想することが多いんです。本作も病院にある新生児室で「ガラス張りの中で寝ている赤ちゃんを大人が見る風景はあるけど、その反対は見たことがない」という考えから始まりました。

 大人が何人もガラス張りのなかで寝ていたら。それはどんな感じなのかなと。そこからドラマを構想していきましたね。そして物語が具体的になっていくなかで、自然と「母親」というテーマが浮かんできたんです。

――絵のイメージから社会派な作品が生まれた流れは興味深いです。

草原:私の場合は「このメッセージを伝えるために漫画を描く」というよりは、あくまで表現を伝えて、そこから何かメッセージを感じてもらえたらいいな、という感じです。とはいえ、自分の思想と正反対な内容を描くこともできないと思ってますね。

 描きながら物語を考えることが多いので、答えが見つからない時はしんどかったりもします。でも本作については描きながら「母親とは何か?」という問いにキャラクターが答えを出せたので、そこまで辛さはありませんでした。

――作品にリアリティを感じましたが、ご自分の経験を反映した部分も?

草原:自分の体験があった方が心情を表現しやすいので、実際にそれを入れて描くことは多いですね。でも本作は炎上しがちな「母親はこうあるべき」というトピックについて、自分なりの考えがアウトプットされた形です。

 もともと会社員をやっていた時間が長いんですよ。そのなかで男女の格差や雇用などの社会問題について考えることも多かったですし、やはり結婚や出産については身近な問題ですから。

――男性側としては、キャラのリアクションや行動に意外な発見があったりもしました。

草原:本作の初出は同人誌でした。当時も女性は出産の有無に関わらず「共感する」という方が多かったのですが、男性からの反応は若干薄かった気がします。「あれはハッピーエンドなのか?」みたいな(笑)。

 最後のシーンは「母親を務めるのが辛い」とか「子どもを愛せない」と言えない社会の空気感のなかで、その気持ちを持っているという場面。それは確かに100%ハッピーとは思えないかもしれません。でも、自分で自分を許せるか、周りに理解してくれる人がいるか、ということはとても大きなことではないかと思います。

――作画について意識したことはありますか。

草原:絵が好きで漫画を描いている部分があるんですよ。だから描く楽しさは大切。恐らく作画が楽しくなかったら、漫画を描くのは難しいと思います(笑)。絵柄についてはもっとリアリティを追求してもテーマには合うと思うのですが、物語性を表現する絵柄に留めていますね。

――影響を受けた作品や作家は?

草原:子どもの頃は「りぼん」や「マーガレット」などの代表的な作品を真似して書いていました。例えば池野恋さんや、いくえみ綾さんとか。あとは大学生の時に萩尾望都さんの漫画を読んで、1週間そのことしか考えられないほどの衝撃を受けました。

――現在は『やがて、ひとつの音になれ』も連載中ですが、今後の活動について教えてください。

草原:初連載作なので、私の商業デビュー作となります。右も左もわからなかったです。物語の考え方や画面づくりなど、編集の方に導いてもらい、自分でも試行錯誤しながらスタートしました。おかげで「人って成長するんだな」と改めて感じています(笑)。自分でも不思議な感覚です。

 今後も成長しながら連載を続けていきたいですね。そして「mothers」の発売に合わせた原画展などのイベントもあるので、そちらも楽しみつつ頑張ります。

■『mothers』
https://www.amazon.co.jp/dp/4867910155

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