人気漫画家・洋介犬に聞く クリエイターサポートをなぜ開設「昭和の根性論が漫画界に蔓延している」
■クリエイターの悩み相談窓口が開設
今や世界的な広がりを見せている漫画やアニメ。そうした作品を生み出すクリエイターに寄り添う相談窓口は、これまでありそうでなかった。「創作していて、心を病んだ時は誰に相談すればいいのだろう?」と悩む人は多かったものの、精神科に駆け込んでも、「好きなことをやっているんだから、気にしなくてもいいでしょう」などと対応されることも珍しくなかったと聞く。
生成AIの問題や、ネット上の誹謗中傷、編集者との人間関係など、クリエイターが抱える悩みは多岐にわたる。そんな悩み相談を個人的に受け付けてきたのが、漫画家の洋介犬氏である。このたび、洋介犬氏の呼びかけに賛同した臨床心理士と漫画家が相談受付チーム「クリエイターサポート」を企画し、注目を集めている。正式な稼働開始日は未定であるが、本格的なクリエイターの相談窓口が開設されるのは心強い。洋介犬氏に、結成に至るまでの経緯を聞いた。
――クリエイターサポート、「クリサポ」の構想が立ちあがったのはいつ頃でしょうか。
洋介犬:2023年5月29日、僕がX(当時のTwitter)で、「クリエイターや漫画家の現場に通じたカウンセラーや相談団体が必要ではないか?」と投稿したのがきっかけです。この投稿に対し、臨床心理士の浅井伸彦先生、漫画原作者の花林ソラ先生が賛同してくださいました。
――洋介犬先生をはじめとするメンバーが発起人なのですね。
洋介犬:発起人は僕と浅井先生に加え、後ほどツクルノ女渦先生にも加わっていただきました。そして、花林先生がサポートという体制になっています。
――それにしても、クリエイターのサポート窓口はあってもおかしくないと思っていたのですが、今まで存在しなかったのは不思議です。
洋介犬:漫画界は特にそうなのですが、「弱肉強食」「病んでしまうのは弱さゆえ」「描けなくなったら去れ」という、昭和の根性論に近い気質があったせいかと思われます。あと、やはりほとんどのクリエイターはフリーランスという立場であり、各々個人でマネジメントをするのが一般的……という風潮も、ひとつの障壁だったのではと推察されます。
■なぜ、クリエイターからの相談が集まる?
――洋介犬先生のXを見ますと、これまでに相談が多く寄せられていたそうですね。なぜ、先生の元にそういった相談が集まるのでしょうか。
洋介犬:もともと、相談があればいつでもどうぞと門戸を開いていたこともあるでしょうが、作家として経歴が長く、経験ジャンルは多けれども、気楽に話せる雰囲気があるからなのかな……とも思います。自分としては、「村の役人」や駐在さんのような感じで受け取ってもらえればと思っております。
――そもそも、漫画家が悩みを抱えやすい要因はどこにあるのでしょう。先ほどのお話にあった昭和の根性論以外にも、様々な理由がありそうですね。
洋介犬:創作は、えてして人や心、時には悪意とも向き合う作業です。その際に「考えすぎてしまう」「見えすぎてしまう」ことから心を病みやすいのかなと。加えて労働環境が過酷なこと、孤独を抱えやすいこと、編集部との軋轢など、重なるものがあまりに多いためだと思います。
――Xでは生成AIの問題なども議論になっていますが、漫画家から寄せられる相談で、具体的にははどのようなものがありますか。
洋介犬:生成AIに関して言えば、やはり「自分の作品が知らぬ間に利用されている」という恐怖が強いようです。作家さんにとって、自分の作品やキャラクターは「我が子」のようなものであり、そのパーソナリティは自分の血肉にも等しい人生経験を分けたもの。それが自分の意に沿わない形で複製されることに対し、いい気持ちにはならないのは理解できます。有志による提供物やパブリックドメインのような、侵害を前提としていないデータセットによる生成AIの確立を切に望みます。