角野栄子×原ゆたか「角野栄子あたらしい童話大賞」イベントレポ 物語の創作を志す人に向けて

 絵本を読み聞かせてもらうのではなく、子どもたちが自身の声で読む「ひとり読み」。そこで物語の世界に入り込む喜びを知ることができるかどうかが、その後の人生を左右するといっても過言ではない。そんな重要な役割を担う、はじめての一冊にふさわしい物語を求めて設立されたのが、ポプラ社主催の「角野栄子あたらしい童話大賞」だ。

 角野栄子といえば『魔女の宅急便』を真っ先にイメージする人も多いだろうが、小さなおばけたちが大活躍する「アッチ・コッチ・ソッチの小さなおばけ」シリーズは、1979年に第1巻が刊行されて以来、今なお「ひとり読み」にぴったりと支持され続けているロングセラー作品。審査委員長をつとめる角野とともに特別審査員に就任した原ゆたかの「かいけつゾロリ」シリーズもまた、1987年の第1巻の刊行以来、子どもたちに愛され続けている児童書である。

 4月には、賞の設立を記念して、プライベートでも親交が深いという二人のトークイベントが開催された。賞の応募者に向けて、貴重なアドバイスとエールが次々と飛び出した同イベント。その一部を、これから新しい物語を紡ぎたいと願う作家志望者に向けて紹介しよう。(立花もも)

オチは最初に決めて書く? それとも決めない? 真逆の創作スタイルと、重なる想い

お互いの創作について語り合う角野栄子さん(左)と原ゆたかさん(右)

原ゆたか(以下、原):角野さんは、天才的な感じなんですよ。子どものころから物語がお好きで、日常的にも空想することを楽しんでいらしたと思うのですが、今でも子どものころと同じように空想がどんどんふくらんでお話が作られていく。僕はもともと、絵描きだったので、自分で物語を書くなんて考えたこともなかったから、自分でお話も書くことになったときに、「どうすればお話が作れるんだろう?」と、自分の好きな本や映画や落語などのお話の仕組みを分析するところから始まった。70冊以上書いてきた今でも、自分がおもしろいと考えるお話の仕組みにあてはまっているかを論理的に考えて書かないと不安でしょうがない。

角野栄子(以下、角野):私の体のなかには、物語のうねりみたいなものが入っているのよね。だから書き始めたときに、結末が思い浮かんでいなくても、書いていくうちにきっとどこかに着地するだろうという気持ちがある。いってみれば、主人公のうしろを半歩下がってついていくような感じかしら。「ちょっと歩きがのろいから早足にしてみたらどう?」とか、「そろそろ何か面白いことが起きないかしらねえ」なんて主人公に語りかけながら、一緒に道をつくっていくの。

原:僕はむしろ「こんな面白いオチを思いついたぞ!」ってところから始まるんですよ。だから途中の道筋はどれだけ寄り道してもかまわないし、読者を楽しませるために主人公にどんな意地悪をしてやろうかなって考えるのが楽しいんだけど、最後は絶対、思い描いていた場所にたどり着く。ラストを決めずに物語を書き始めるなんて、怖くてできない。そんな僕が、角野さんの名前を冠する賞で審査員なんてしてもいいのかしらん、と最初は思ったんだけど、真逆の創作スタイルの二人がジャッジするからこそ面白いのかなと。

原ゆたかさんとは、キャラクターと物語への注力が異なるのではと話す角野栄子さん

角野:原さんは理屈っぽいし、私はいい加減だし(笑)。たぶん、私とあなたのいちばん違うところは、キャラクターと物語のどちらにより力を注いでいるかなんでしょうね。私はよくいたずら描きをするんだけど、そのうちに「もっと描いてみたいな」と思える人が生まれるの。どんな家に住んでいるんだろう、お母さんはどんな人だろう、と想像していると、あるとき急にその人がしゃべり始めるんです。「いやだ、そんなこと」って具合にね。ええ、どうしたんだろう、何がいやなんだろう、ってさらにその人の奥に入っていくうちに、物語が生まれている。結末を決めなくても不安がないのは、すべてその人のなかに詰まっていると感じるから。私はただ追いかけていればいいの。

原:その人の人生に付き合ってみたら、いつのまにかこんなところにたどり着いちゃったわ、っていう……。考えてみたら、人生って、本来そういうものですよね。僕は映画が好きだからか「ゾロリがスター・ウォーズの世界に入ったら」とか、こういうシーンを描きたいとか、絵からお話を考えることもあります。描きたいシーンや、最後のオチにもっていくまでに、どういう展開がいちばんおもしろいのか、論理的に練りあげていくんです。

角野:それはあなた、やっぱり絵描きさんだからですよ。すごいわよね、カードいっぱいのネタを書いて、ずらーっと並べて構成を考えているものね。でも、私もあなたも、自分が楽しいと思ったことを書けばいいんだ、って想いは一緒でしょう?

原:そうですね。自分が楽しいと思わないものは、いくら面白そうに書いても相手の心に響かない。最近これが流行っているから、童話っていうのはこういうものだから、なんて気持ちで描いていてはだめなんだろうと思います。子ども時代の自分が好きだったもの、わくわくしたことを、新しい形に変えて「おもしろいでしょう?」って次の世代に提示することが児童書の作家の役割だと思っています。この賞にも、そういう作品が来てくれないかなと思っています。

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