「本が制作できたのも末期がんのおかげ」叶井俊太郎が生前語っていた病との向き合い方

膵臓がんの宣告を受けて感じたことは

インタビューに応じる叶井俊太郎氏

 『アメリ』『ヅラ刑事』『日本以外全部沈没』などを手掛けた映画プロデューサーの叶井俊太郎氏が、2月16日午後11時頃、都内の自宅で死去した。56歳だった。妻は漫画家の倉田真由美氏。

  叶井氏ほど、破天荒かつインパクトの強い仕事をした映画プロデューサーはいないだろう。2001年に『アメリ』をヒットさせたのちに映画配給会社を立ち上げたが、失敗続きで、破産も経験した。2019年にサイゾーに転職、同社の映画配給レーベルで宣伝プロデューサーを務めていた。

  また、私生活では3度の離婚を経験。2022年6月にはステージ3の膵臓がんで余命半年の宣告を受け、2023年10月にはステージ4の末期がん患者となっていたが、標準的な抗がん剤治療や手術を行わず、『恐解釈 花咲か爺さん』など映画のプロデュースに打ち込む日々を送っていた。

  叶井氏は10月にリアルサウンドブックのインタビューに応じ、その数日後に出版を控えていた書籍『エンドロール! 末期がんになった叶井俊太郎と、文化人15人の〝余命半年〟論』と、自らの死生観について語っている。ラフな服装で登場した叶井は末期がん患者とは思えないほど前向きで、時折笑いを交えながら語る姿が印象的であった。

  がんが発見された瞬間、狼狽する人は少なくないだろう。しかし、叶井氏は「人生、特に未練がない」と語り、「この本が制作できたのも末期がんのおかげ」「仕事をしていて、末期がんは仕事に使える“パワーワード”だと思った」と、末期がんのおかげで仕事がスムーズに進み、しかもずっと会いたいと思っていた人に面会するチャンスに恵まれていると話した。

  その一方で、自身が好む漫画や映画については、「『ベルセルク』の続きが読めなくなるのが心残り」「来年、再来年もメジャー、インディーズともに面白い映画が出てくるだろうね。やっぱり、新しい映画が見れなくなるのは悲しいな」と、寂しそうに語っていた。

  叶井氏はインタビューの中で、私生活についても語った。女性関係は常に話題となり、実に4人目の結婚相手となったのが倉田氏であった。周囲からも「すぐ離婚するんじゃないと、ずっと言われ続けていました」とのことで、「ここまで続いたのが自分でも驚きです」と告白。

  結婚生活が長続きした要因をたずねると、「くらたまと同じ本を結構持っていた」と、本の好みが近かったことを明かした。そして、「子どもが生まれたのは、結婚生活が続いた理由として大きい」「子育てという共同作業を一緒にやったのは良かった」と、子どもについて話すときの叶井氏の顔はほころんでいた。

  叶井氏だからこそ実現できた、末期がん患者が15人の識者と対談するという前代未聞の本『エンドロール! 末期がんになった叶井俊太郎と、文化人15人の〝余命半年〟論』は、映画やサブカルの歴史に残る貴重な証言が収録され、さらには叶井氏の仕事論や死生観まで深く知ることができる名著だ。この機会に改めて読み返したい一冊である。

「末期がんはパワーワード」叶井俊太郎、最後に語る家族や仕事、書籍への思い「くらたまのあとがきは笑えない。だけど、良い文だよね」

  2023年10月、ステージ4の末期の膵臓がんを患っていると告白したのが、映画プロデューサーの叶井俊太郎氏である。叶井氏ほ…

 

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