創元SF文庫60年の歴史が一冊に! 海外SFを楽しむための道しるべ『創元SF文庫総解説』

 武部のカバー・イラストだと、ジョン・ノーマンの《反地球》シリーズもある。ただし武部が亡くなったため、途中から加藤直之に交代した。ついでにいうと《反地球》シリーズは六巻で翻訳が途絶える。《反地球》シリーズの項を読んでもらえば分かるが、今の時世では、続きの翻訳は難しいだろう。

 だから続刊はあきらめがつくのだが、あきらめきれないのがジョージ・R・R・マーティンほかの《ワイルド・カード》シリーズだ。物語の基本設定は、ウィルスによって生まれた特殊能力者たちが、それぞれの人生を歩み、戦いを繰り広げるというもの。多数の作家が参加した、シェアード・ワールドSFである。この作品の項を担当している作家の宮澤伊織は、洒落たデザインのカバー、末弥純の美麗な挿絵、洗錬された訳文に触れ、「この日本版は『ものすごくかっこいいアメリカの伝奇バトル』に映った。他ならぬ私がそうだったのだが、個人的には、同じく末弥純が挿絵を描く菊地秀行《魔界都市ブルース》に触れた後だったので、同じ文脈で夢中になって読んだ」といっている。この言葉に激しく同意だ。代表翻訳者の黒丸尚が亡くなったことで、第三巻で翻訳が中断してしまったが、こちらは今でも復刊と続刊を待っている。本当に面白いの作品なのだ。

 他にも、各種SFアンソロジーや、ウィリアム・テンの『ウィリアム・テン短編集』二冊、SFファン大喜びのL・ニーヴン&J・パーネル&M・フリンの『天使墜落』、早川書房の単行本を文庫化したジェイムズ・ホワイトの名作『生存の儀式』など、語りたい作品は山ほどあるのだが、これくらいにしておこう。あっ、最近の作品なら、マーサ・ウェルズの《マーダーボット・ダイアリー》シリーズがお薦めである。

 このように創元SF文庫を読んできた人なら、本書に目を通しているうちに、いろいろなことを思い出さずにはいられない。一方、これから本格的に海外SFを読もうという人には、恰好の道しるべとなるだろう。年季の入ったファンからSF初心者まで、常に手元に置いておきたい一冊なのである。

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