OKAMOTO’Sオカモトショウ連載『月刊オカモトショウ』

オカモトショウが選ぶ、いま注目のマンガとは? 天才・魚豊の新作から残酷すぎる野球漫画まで、期待作を大紹介

 ロックバンドOKAMOTO’Sのボーカル、そして、ソロアーティストとしても活躍するオカモトショウが、名作マンガや注目作品をご紹介する「月刊オカモトショウ」。今回は「2023年に印象に残ったマンガ」そして2024年の展望について語ってもらいました。

『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』(魚豊)

 『チ。』が大ヒットした魚豊さんの新作なんですが、これもまたすごいマンガなんです。テーマは陰謀論と恋愛。主人公は高卒で派遣の倉庫作業員として働いている19歳の男子で、社会のなかで見過ごされがちというか、弱者として描かれている。貧困の問題もそうだし、教育格差や東京への一極集中を含めて、今の社会的な問題が背景にあって。そこからヒロイン的な女の子の出会いをきっかけにして、陰謀論につながっていく。

 今、陰謀論者と呼ばれてる人は世界中でいろんな渦を巻き起こしてるじゃないですか。「どうしてそうなるのかな?」と思うけれど、それぞれの人に正義があって、一生懸命に生きている。『ようこそ!~』にはそういう部分も描かれていくんだと思います。あと、ユーモアもヤバいんですよ。北野武監督の『首』じゃないけど、ヤバいんだけど笑える場面もたっぷりあって、そこもおすすめですね。

 自分のなかで今の世代の天才といえば、藤本タツキさんと魚豊さんなんですよ。お二人ともそれぞれのやり方で作風を押し広げているし、『ようこそ!~』がここからどう展開するか、すごく楽しみです。

『龍とカメレオン』(石山諒)

 主人公2人が入れ替わっちゃう系のマンガですね。超人気マンガで一世を風靡している大先生(花神臥竜)と、どんな絵柄も真似できるアシスタント(深山忍)なんですけど、ある日、二人が階段で転倒して、意識が入れ替わってしまう。アシスタントくんは(花神の体で)人気漫画として生きると言い出し、先生のほうは(深山の体で)新人漫画家として成り上がってみせると宣言。先生のほうは頭のなかも少年マンガみたいな人で、「自分が描いたヒットマンガと戦える」って盛り上がっちゃうんですよ。

 設定自体はそこまで新しくないかもしれませんが、描き口がとにかく熱くて、「こんなに勢いがあるマンガ、久々に読んだな」と。二人の関係性やキャラクターは、言うなれば『DEATH NOTE』と『バクマン。』の間みたいな感じだし、アシスタントくんのずる賢さ、先生の熱さの対比も上手い。マンガを描いてるときの気迫の表現がめちゃくちゃマンガ的で、気持ちいいんです。石山さん自身も連載を打ち切られた経験があるので、余計に熱量が高くなるのかもしれないですね。

『僕と君の大切な話』(ろびこ)

 2023年のマンガではないんですけど、面白かったのでぜひ紹介したくて。女子高校生が同い年の男の子を好きになって、告白する。男の子のほうは最初「冗談だろうな」と思うんだけど、その日から下校途中の駅のベンチで話すようになるんですけど、このマンガ、二人がひたすら喋ってるんですよ。「女の子は“こうしてほしい”って言うくせに、後になって“気分じゃない”とか言うよね」「すぐ機嫌悪くなる」みたいなことを言う。女の子のほうも「男子はすぐにこういうことして……」と喋ったり、とにかく“恋愛中の男女あるある”をずっと話し合ってるんです。温度差や価値観の違いの表現が絶妙で、クスクス笑いながら読んじゃうんですよね。

 もちろんラブコメの要素もあるし、日常系マンガにも近いのかな。『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』以降の恋愛マンガの新しい流れも感じるし、主人公たちがずっと喋ってるという意味では『セトウツミ』に通じる部分もあるのかなと。あまり恋愛マンガを読まない人でも楽しく読めると思うので、ぜひ。

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