手塚治虫『新選組』なぜドラマ化? 萩尾望都も影響を受けた、知られざる“時代劇短編”の内容

手塚治虫の漫画、ドラマ化が相次ぐ

 今年は『ブラック・ジャック』をはじめ、漫画界の巨匠・手塚治虫の名作のドラマ化が相次いで予定されている。そして、手塚が「少年ブック」に1963年に連載した『新選組』も、2024年4月から実写連続テレビドラマ化されることが決まった。ドラマのタイトルは『君とゆきて咲く ~新選組青春録~』となる。

  手塚の『新選組』は、2022年に中村歌之助と中村福之助の出演で歌舞伎にもなっているが、それに続くメディアミックスとなる。今回のドラマは、テレビ朝日と東映がタッグを組んで制作する“シン・時代劇”になるのだという。また、メインキャストの一人をオーディションによって選出することも発表された。

  エッ、手塚治虫が新選組を題材に漫画を描いていたの? そもそも手塚治虫って時代劇を描いているの? と思う人も多いかもしれない。実は、『新選組』の少し前の1959年にも『夜明け城』のような時代劇を描いているし、1981年から5年以上も「ビッグコミック」で連載された『陽だまりの樹』は晩年の傑作と評価されている(作中には新選組の隊士もわずかだが登場する)。

 『新選組』は惨殺された父の仇を討つために新選組に入隊した深草丘十郎(ふかくさ・きゅうじゅうろう)と、入隊試験で知り合い、後に親友となる鎌切大作(かまぎり・だいさく)が幕末という激動の時代の中で翻弄される姿を描く少年漫画だ。2人とも手塚が創作した空想の人物だが、芹沢鴨や近藤勇、沖田総司など、実在の人物も登場し、史実を織り交ぜながら物語は展開していく。

あの萩尾望都も感銘を受けた

『手塚治虫全史 その素顔と業績』(著:手塚プロダクション/秋田書店)

 秋田書店の『手塚治虫全史』の解説によると、『新選組』は手塚が正統派の時代劇を意図して描いた作品なのだという。連載が始まった1963年は、新選組の前身である浪士組結成からちょうど100年目であったが、当時は今のような新選組の人気も知名度はなかった。そのせいか、雑誌では思ったような人気を得ることができず、打ち切りに追い込まれた不遇の作品であったとされる。

 だが、漫画好きの間では当時から評価が高かったようだ。漫画界の巨匠・萩尾望都も高校2年生の時にお年玉で『新選組』の単行本を買って深い感銘を受け、漫画家を志すきっかけになったと語っている。2022年に山崎潤子が手塚治虫公式サイト「虫ん坊」で行ったインタビューで、萩尾が当時の衝撃を語っている。いくつか印象的なコメントを引用しておこう。

 「そのときの自分の心情に何かこう、ストーリーがフィットしたのでしょうね。ものすごくのめり込んでしまって、1週間くらいずっーと、この漫画のことを考えていた」

 「進路やら何やらで、悩んでいた(注略)そんなときに、『新選組』に出会って、頭から離れなくなった。そして『こんなにもひとつの物語が人にショックを与えるものなのか』と感動しました」

 「人間には『やられたことをやり返す』という癖があるんです。だから、私も誰かにショックを与えたいと思ったわけです(笑)」

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