『ちいかわご朱印』転売が問題視されるほどの大人気 「御朱印ブーム」なぜ人気が衰えない?

■出版社も御朱印ブームを仕掛ける

 2010年代になると、出版社からオリジナルの御朱印帳がついた書籍が売り出されはじめる。そして、決定的なブームが起こったのは、2013年に伊勢神宮と出雲大社のダブル遷宮が話題になった時期であろう。「るるぶ」などの旅行ガイドや「サライ」などのシニア向けの雑誌のみならず、若者向けの雑誌やファッション誌までもが式年遷宮の特集を作成。この機会に神社を巡ろうと呼び掛けた。

 また、菊池洋明が編著者となって2016年に出版された『永久保存版 御朱印アートブック』はベストセラーとなった。掲載された美しい御朱印、達筆すぎる筆遣いに目を奪われた人も少なくないだろう。菊池は日本屈指の御朱印愛好家であり、御朱印ブームを定着させるうえで果たした役割は大きいと思う。

 菊池の『永久保存版 御朱印アートブック』の出版をきっかけに、期間限定の御朱印のほか、華やかな和紙やカラフルな朱肉を使ったいかにも映える御朱印、手描きのイラストや特別なスタンプ入りの御朱印なども増加したといわれる。ところが、2010年代後半にフリマサイトが普及すると、こうした特別感ある御朱印をターゲットにした転売屋も増えた。元号が令和に改元された令和元(2019)年5月1日には、明治神宮など著名な神社の御朱印が相次いで転売され、寺院や神社が苦言を呈する事態になったのも記憶に新しい。

2013年発売の「サライ」5月号。伊勢神宮の式年遷宮と、出雲大社の遷宮を併せて特集。
『永久保存版 御朱印アートブック』(菊池洋明/編著、PHP研究所/刊、2016年)

■御朱印をいただく意味を考える

 ちなみに記者の親族には神職がいて、伊勢神宮系統の神社をやっているのだが、まだ御朱印はない。地方の寺院や神社ではそもそも御朱印をやっていない例が珍しくなく、関係者ですら御朱印を知らない例もあったのだが、最近はブームに乗って始める例が増えているようだ。お守りのように在庫を抱える必要がない点も、メリットと捉えられているようだ。

 昨今の神社の経営事情については胡原おみと西山倫子+モノガタリラボの漫画『氏神さまのコンサルタント』が詳しい。漫画の中では神社の立て直しに奮闘する主人公たちの姿が描かれているが、現に後継者不足や財政難に悩む神社は増えており、社殿の管理が行き届いていない例も見かける。

『氏神さまのコンサルタント』(モノガタリラボ&胡原おみ+西山倫子/著、講談社/刊、2023年)

 御朱印ブームはそういった寺院や神社にとって渡りに船といったところだと思うが、信仰と経営の狭間で悩んでいる関係者も多いと聞く。御朱印とはそもそもいったい何なのか。信仰とはいったい何なのか。転売屋から買った御朱印は意味があるものなのか。『ちいかわ』の御朱印転売騒動を機に、そういったテーマについて今一度考える機会としたいものである。

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