『キャプテン翼』連載終了=高橋陽一の引退ではない ネームの形で物語を描き切るという英断

ネームの形で物語を描き続けるという英断

 また、個人的には、「体力の衰え」を自覚しながらも、この先も『キャプテン翼』の物語をネームの形で描き続けようという、高橋の漫画家としてのアティチュードに感動した。そう、今回の「発表」を、事実上の引退宣言と受け取っている人も少なくないかもしれないが、何も高橋は、漫画家であることをやめるといっているわけではないのだ。

 このことについて、高橋はこう述べている。「頭の中には『キャプテン翼』の一応の目安の最終回まで、構想が」ある。しかし、シリーズ完結までいまのペースで続けていくと、少なく見積もってもあと40年以上はかかってしまい、その頃、「僕は100歳をゆうに超えています」。ならば、とりあえずはネームの形ででも物語を最後まで描き切っておいて、(仮に自分が関われない場合は)続編の漫画やアニメの制作を未来の“誰か”に託したい、というわけだ。

 これは、作者の死によって中断した『サイボーグ009』(石ノ森章太郎)や『ベルセルク』(三浦建太郎)などのケースと照らし合わせてみても、かなり現実的な考えだといっていいだろう(※前者は石ノ森が遺した構想ノートを元に、小野寺丈、早瀬マサト、シュガー佐藤らの手によって『サイボーグ009 完結編 conclusion GOD’S WAR』として完結した。また、後者は、三浦から物語の最後までの展開を聞かされていた森恒二が監修を務め、『ベルセルク』の元スタッフたち(スタジオ我画)が再集結し、連載を継続中だ)。

 いずれにせよ、春には『キャプテン翼』という稀代のサッカー漫画がいったん幕を閉じることになる。日本代表のワールドカップ出場が夢のまた夢だった頃に始まったこの長大なビルドゥングスロマンが、現実の世界に与えた影響は計り知れないものがあるだろう。

 むろん、大空翼の成長と活躍は、今後もネームの形で続いていく。高橋陽一の決断を、いまは心から応援したいと思う。

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