“ポップごと売る本屋” として知られる名物書店、青森県八戸市の「木村書店」が閉店へ

  “ポップごと売る本屋”として有名な、青森県八戸市の「木村書店」が12月27日に閉店した。地方の書店業界に衝撃が走る発表であった。

 1927年創業の木村書店は、八戸市小中野地区にある典型的な町の本屋だが、2017年に始まった手描きのポップをつけて本を宣伝する試みが話題になる。そして、「ポップが欲しい」というお客さんの要望に応えるなかで、ポップと本を一緒に販売するという現在のスタイルが定着した。

 公式Xの12月11日付のポストには、「創業から96年、長年にわたり支えていただいた皆様に心より感謝申し上げます。残り少ない営業とはなりますが、お客様のご来店を従業員一同心よりお待ちしております」と、感謝の言葉が綴られていた。

 また、これまで数々のポップを描いてきた、木村書店の通称“ポプ担”の及川晴香氏が、「長年ポップ担当というとても楽しい仕事をさせていただき、お客様には感謝の気持ちでいっぱいです。私個人の話になりますと病気療養の休職中の閉店、とても悲しいです」と思いをポストした。

  そして、「残りの期間は私も体調が安定している日は出勤して木村書店という場とお客様とのやりとりを楽しみたいと思っております。長きに渡りXでも沢山のお客様に見ていただき、木村書店アカウントは本当に幸せな企業アカウントでした。皆様のお力なしにはポップ担当を続けることは勿論、2冊も本を出版するという夢のような体験をすることはなかったと思っております。本当に、本当にありがとうございました!」とコメントした。

  木村書店のポップは全国的に有名となり、『ポップ担当日記 まちの本屋と書店員の日常』など、これまでに2冊の本が出版されている。かわいらしく、あたたかみのある絵柄は幅広い世代から好評で、Xにたびたびポストされる漫画も人気が高かった。

 ちなみに、筆者も、八戸のガイドブック『八戸本』(エディターズ/刊)を手伝った際に、合間に訪問させていただいた。残念ながらポプ担”さんに会えなかったのは心残りである。

  地方にある書店は次々に姿を消している。特に2020年のコロナ騒動以降はその傾向が顕著となり、阿佐ヶ谷の「書楽」など、大都市の鉄道沿線にある老舗書店までもが相次いで閉店を発表している。さらに、電子書籍やネット書店の台頭によって、町の本屋さんを訪れる人も急激に減少。本を書店で買うという文化が衰退しつつある。

  そんななかで、木村書店は創意工夫によって人々の目を書店に向けさせた点において画期的な書店であった。しかしながら、市営の書店「八戸ブックセンター」が存在するなど、地方都市の中でも書店の文化が盛り上がっている八戸市から老舗書店が消滅するのは本当に残念である。コロナ騒動の影響が残る地方で、書店の苦境は今後も続くと考えられる。

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